耳鼻科で扱う風邪について

風邪をひいたと思ったら?

昔から風邪は寝てなおせ、温めて十分な栄養をといわれていますが、これはとても理にかなった考え方です。
風邪はのどから、鼻からといわれる通り、かぜの原因はのどと鼻への病原体の侵入が第一歩です。一生風邪を引かないひとはほとんどいないため、かぜの辛さは身に覚えがあるのでは無いでしょうか?耳鼻咽喉科は文字通り、鼻、のどの病変を専門にしており、直接診察し、直接処置をすることで、風邪に対してきめ細やかな診断と治療が強みです。

風邪の原因は?

一般的な”かぜ”を医学用語では”感冒”と呼び、インフルエンザは”流行性感冒”というかぜの仲間です。主なターゲットはのど、気管などの”上気道”でウィルスの感染により生じます。風邪に関係するウィルスは200種類以上知られており、また同じウィルスでもさまざまなタイプ(亜型)があり非常に多彩なのが特徴です。まず、”種類が多すぎて、すべてのウィルス個別の対策が取りきれない”ということを念頭に置いて頂く事が、これからにお話で非常に大切になります。つまり風邪に完璧にきくお薬は(バリエーションが多すぎて)ない、ということです。ウィルスの種類が多いという事は、原因ウィルスを特定するのも、治療を絞るもの難しいという事です。そのため、風邪に関しては予防とひきはじめの対応が非常に大切になるのです!

咳とくしゃみ

ウィルスや花粉などヒトは鼻やのどに異物を感知すると、せきやくしゃみで吐き出そうとします。悪者にされがちな大量の鼻水やタンも体が頑張って異物を外に出そうとしてくれている事を忘れないでください。一般に咳をゴホンとすれば、10万個のウィルスが、くしゃみをすればなんと100万個のウィルスが空中にばらまかれます。そのウィルスを鼻や口が受け止めても必ずしもウィルスが体内にいついて増殖する訳ではなく、健康なヒトの体には”免疫力”というありがたい防衛部隊が備わっています。ウィルスに対し、免疫細胞が攻撃を仕掛け、その結果増殖を抑えることができるのです。最近よく話題になるNK細胞も免疫担当細胞の一つです。

風邪をひかないためには?

”わたしは風邪を絶対ひかない”、と豪語するスポーツ選手を時々見かけますが、一生風邪をひかないことはできません。
でも
・風邪をひきにくい対策
・風邪をひきかけたとときの対策
を適切にとることにより、風邪を悪化させないことが大切です。ではどのような対策が望ましいでしょうか?

風邪をひきにくい対策

一に睡眠、二に栄養とは昔から言われていますが、まさにここが原点です。
なぜなら先にお話しした”防衛部隊”である免疫細胞にきちんとお仕事していただかないと、我々ヒトはウィルスに対する武器を他に持っていないからです。
十分な睡眠や栄養は免疫力を高めてくれます。ビタミンCやヨーグルトなどの乳酸菌は抵抗力をサポートしてくれます。しかし、なにより攻撃は最大の防御と言われるように、体内にウィルスが入って来ない”攻めの”かぜ対策が非常に大切です。からだにウィルスが入ってくる侵入経路を落ち着いて考えてください。手やタオル、空中に浮遊しているウィルスを鼻や口で取り込んだ時に体内に入ってしまいます。
つまり、水際作戦で鼻と口にはいるウィルス量を減らせば感染する確立が低くなるという理屈です。

空中のウィルス量を減らす

適切な湿度が大切です。50%から60%(これより多いとカビの増殖や結露など別の問題も発生します!)の湿度となる様に加湿することが非常に大切です。むかしは石油ストーブの上によくやかんが置いてありましたよね。現在はやかんは置かないので加湿器が役にたちます。加湿器に頼らなくとも、ぬれタオルを干しておくだけでも十分です。
また、わたしはアロマに興味がありますので、ティートゥリーやユーカリなどの抗ウィルス作用のあるアロマオイルを空中に浮遊させることでウィルスを抑えてくれる可能性が高くなります。また、このオイルには鼻の通りを良くしたり、自律神経を調節する作用もありおすすめです。私は(肌に直接触れないように)診療マスクの外に数滴つけて診療するときもあります。
霧吹きの要領で空中にアロマオイルを吹きかけるのも良いと思います。最近はアロマディフューザーといって霧状に加湿してくれる便利なものもありますのでお試しください!

鼻からの侵入する量を減らす

当院でも推奨していますが、鼻うがいが非常に有効です。
0.9%食塩水(ヒトの体内でもっとも自然な濃度)を人肌(36度程度)にあたため、鼻から吸い込んで口から吐き出す洗浄です。はじめは難しいですが、意外と刺激が少なく、洗浄後のすっきり感は癖になります。鼻に炎症があると(アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎)ウイルスが入り込みやすくなりますので要注意です。鼻をしっかり包み込むマスクが一番現実的でしょうか?

口から侵入するウィルス量を減らす

昔はよく塩水でうがいしていたものです。これ自身は間違っていないようですが、もっといい方法があります!それは紅茶うがいです。
紅茶に含まれるカテキンの抗ウィルス力は緑茶のそれより強く、科学的に紅茶うがいの有効性は証明されています。イソジンうがいもよいのですが、粘膜刺激がつよく紅茶うがいで十分とおもいます。ティーパック(出がらしでもOK)に熱湯を注ぎ10分ほどまってでた液体を数倍に薄め、ぬるま湯としてうがいしてください。はじめは口の中のウィルスを洗い流すために数回のぶくぶくうがい、その後に元気にガラガラうがいを最低3回以上してください。
鼻と同じで、のどに炎症がある方がウィルスは感染しやすいのでご用心を!

手や衣服からのウィルス量を減らす

手洗いをしっかり、外出からかえったら衣服を変えて。できればお風呂で髪も含めて洗い流してが基本です。
家族がいるご家庭ではタオルは個人個人別々にしてください。感染力の高いウィルスでは家庭内感染を引き起こします。また手洗いは指の隙間、つめなどに特に注意して樹分な流水で洗い流してください。殺菌作用のある石けんを用いてしっかり数回洗います。外出後の衣服には花粉と同様、多くのウィルスが付着していますので、帰宅後はすぐ着替えてください。そのとき(できれば抗ウィルス作用のある)空気清浄機が活躍します。部屋の入り口に空気清浄機を設置し、コートなどをそこで掛けることで中と外の境界区別”ゾーニング”を行ってください。ここからは中、ここまでは外というゾーンを意識するだけで家庭内のウィルス量は大きく異なります。これは花粉対策にも有効です!

風邪を悪化させない(ひきかけたときの)対策

以上の対策をきちんとしても、やはりかぜウィルスに感染してしまうのが人間です。大切なのはひき始めです。理由はウィルス量がひとたび体内で増殖し始めると、どんなに頑張っても免疫担当細胞が間に合わなくなるからです。ウィルス量が少ないうちに手を打つ事が大切です。

まずは体を休めてください

免疫力を高めNK細胞を活性化することでかぜウィルスへの抵抗力が高まります。特に良質の睡眠が大切です。

ビタミンCをしっかり取り体を温めてください

ビタミンを十分に摂取するのは予防と同じですが、体を温めることが大切です。生姜湯や香辛料入りの豚汁、紅茶、スープなどで体を温めます。お風呂は寝る前にぬるま湯にじっくりつかります。腸内環境の正常化目的でヨーグルトも推奨されます。のどを守るために蜂蜜入りのあったかい紅茶も良いようです。

体を温める漢方も有用

葛根湯は体を温めるものとして有名ですが、特に風邪初期の寒気がする、頭が重たい、肩こりがする、鼻がむずむずする時期に有効です。逆に高い熱が出始めたり、発汗、強い鼻水、のどの痛みがあるとあまり有用ではありません。

そしていつもの紅茶うがい

のどがいがいがしているのはウィルス感染のサインです。カテキンでキチンと洗い流してください。ぬるま湯の紅茶がベストです。

最後に十分な水分補給

電解質をきちんと取るために、ポカリなどの飲料が望ましいと思います。しっかりおしっこが出ることが目安です。

アレルギー性鼻炎と風邪の違いは?

アレルギー性鼻炎も透明な鼻水を認めますが、風邪のような発熱はありません。アレルギー性鼻炎の方で長引く風邪と思っておられた方もおありですので、一度耳鼻科できちんと診察を受け、抗アレルギー薬の反応をみて治療方針をきめることをお勧めします。逆に鼻水が非常に多い風邪でも抗アレルギー薬を加える事もあります。最終的には鼻水に含まれる好酸球数(アレルギーの原因のひとつ)をチェックします。好酸球が増えている方がアレルギー性鼻炎です。

インフルエンザとそれ以外の風邪との違いは?

普通のかぜは年中見られますが、インフルエンザ別名”流行性感冒”ですので冬に流行期を迎えます。風邪は症状の経過が緩やかで熱も比較的微熱に留まるのに対し、インフルエンザは症状が強く、高熱、関節・筋肉痛などの全身症状が強いのが特徴です。高齢者、小児などでは脳炎や肺炎をきたす重症型もあり注意が必要です。急激な発熱は”シバリング”といって、ぶるぶる震えを伴う”悪寒”をきたすことが特徴です。ただし、インフルエンザの診断がつけば、その他の風邪とことなり”抗ウィルス薬”が使用で来ます。診断は発熱後一定時間が経過した後、鼻水からの迅速検査でわかります。とにかく感染力が強いため周囲の方は要注意です。

漢方が有効な場合は?(漢方の項参照)

漢方は西洋医学と異なり、体の状態を総合的に考え(証)処方するもので、効果は病気の状態、個人の体質に基づいてかわってきます。
■風邪のひき始め
葛根湯など
■のどが痛い時
桔梗湯、甘草湯など
■鼻水が強い時
小青竜湯など
■咳痰が強い時
麦門冬湯など
などが有名です。

風邪をこじらせた時におこる病気あれこれ

”かぜは万病の元!”高齢者、乳幼児、全身合併症をお持ちの方(糖尿病やがん、腎臓病など)は風邪から重篤な合併症を引き起こす事もあり要注意です。簡単に列挙します。
■扁桃周囲膿瘍
文字通り、扁桃の周囲に膿がたまり、口が開きにくくなったり飲み込みにくくなったりします。片側が特に痛い時には要注意です。耳鼻科で切開を行い、溜まった膿を抜く事が必要となります。頸部に膿瘍が波及すると、深頸部膿瘍となりさらに重篤になります。
■急性喉頭蓋炎
風邪ウィルスがのどのふたである喉頭蓋を腫らして、呼吸がしにくくなります。緊急入院で治療が必要で、気管切開といってのどに孔を開けて気道を確保しなければならない可能性もあります。
■気管支炎、肺炎
気管支炎は小児では風邪に引き続き生じやすい病気です。熱や咳がつづき元気が無い状態が続きます。肺炎になると入院治療が必要となる事もあります。
■急性副鼻腔炎、急性中耳炎

鼻のそばにある空洞(副鼻腔)に膿がたまり、頭痛、黄色い痰、においがしないなどの症状を引き起こします(鼻の項参照)。中耳炎は耳管(みみとはなをつなぐ管)を伝わり、鼻とのどから炎症が広がっておこります。こどもの耳管は未熟で風邪を引くと中耳炎を繰り返しやすい特徴があります。

■リウマチ熱
風邪のウィルスとは違いますが、A群溶連菌感染で生じ、心臓弁膜症や腎炎を発症することがあります。
■髄膜炎
こどもや高齢者で頭痛、嘔吐がひどいときには注意が必要です。

風邪の診断に関わる検査は?特にこどもの風邪について(こども特有の症状参照)

風邪の中には原因が迅速検査や採血ではっきりするものもあります。ウィルス以外に細菌感染を引き起こしている場合、抗生剤を適切に使用するなど治療方針が変わりますので疑う時にはきちんと検査することが大切です。
ヘルパンギーナ
アデノ
おたふく風邪
溶連菌感染症
RSウィルス(重症化のリスクあり)
コクサッキーウィルス
マイコプラズマ
みみ・はな・のど・くび