”聞こえているのに聞こえない”のが、聴覚情報処理障害(APD)の特徴です。
この疾患概念は比較的新しく、耳鼻科医の間でも十分な認知がされているとは言い難い厄介な病気です。
特徴は、耳鼻咽喉科的聴力検査(標準純音聴力検査・語音聴力検査)で明らかな異常を認めないにも関わらず、脳における言語の情報処理がうまくいかないため、騒音下や歪みのある言葉が聞き取りにくい状態で、社会生活に支障をきたす状態です。重要なのはいわゆる注意欠陥・多動障害(ADHD)や他の発達障害を除外した上で診断がつくことです。ADHDは心療内科や精神科での診断となりますので、その上で聴力に本当に障害がなければ診断確定となります。なお、”本当に聞こえている”ことの証明は”客観的聴力検査”が必要ですが、通常は純音聴力検査で十分です。
予備問診としてはフィッシャーのチェックリストで判定します。
なお、有効な治療はないため、以下の対策をとることになります。
1)環境調整
職場や家庭内での聴覚情報を補助するため、できるだけ1対1の会話を行う、騒音がひどい時には”ノイズキャンセル機能”をもった補助装置を利用する、文字情報を併用する。口元を見せてもらって会話する、などです。
2)訓練による聴覚情報処理強化
特定の訓練を言語聴覚医学的に行う
3)代償的手段の確立
聴覚以外の手段を補助的に用いる方法
何れにしても、なかなか一朝一夕には良くなることが難しく、診断がついたら周囲の協力で職務を補助することが基本となります。