私たちが聞こえると感じるのは、どのようなメカニズムなのでしょうか?
聞こえはどのようにして”音”として感じられるのでしょうか?
まず我々の聞いている音は”音波”といわれているように、空気の振動がスタートです。小さいころに糸電話で糸の振動を通じて音を感じた方も多いのではないでしょうか?空気の振動は図の外耳道を通って、鼓膜を振動させます。鼓膜の振動は次に耳小骨(つち、きぬた、あぶみ骨)という小さな骨を振動させ、蝸牛というカタツムリの形をした器官に伝わります。(ちなみに耳小骨は人体の中でももっとも小さな骨から成り立っています。)蝸牛の中にはリンパ液で満たされており、その液体の振動は中にある細かい毛が曲がることで電気信号に変え、脳へ伝わっていきます。脳では大脳の聴覚野という場所で音を感じ、初めて聞こえることになります。聞こえの障害はこれらの信号伝達のどこが悪いかをきちんと調べることからはじめます。(”聞こえの検査”参照)
こどものみみが心配なお母さんへ
赤ちゃんの聞こえの発達過程
耳からえられる情報、”聞こえ”は”見ること”とならんで、人間が生きていくために集める情報の内、もっとも大切なもののひとつと思います。
研究者によると、聞こえないことによる精神的ストレスは見えないことによるストレスより大きいという報告もある程です。聞き取りが悪いために何度も聞き返しが必要になると、社会生活がうまくいかない、家庭や友人との会話で寂しい思いをするということ以外に、成長段階のこどもは”言葉の習得”や学習発達に大きな影響を及ぼします。小児期は成長・発育・学習などできちんと聞こえを管理する事が非常に大切と思います。ただ、ことばの発育には個人差が大きい事が知られており、必要以上にお母さんが心配されると赤ちゃんに伝わりますので、耳の病気は耳鼻科に任せて頂き、それ以外は小児科と連携をきちんと取って頂く事が重要になります。
また、耳の痛みは歯の痛みと同様に脳神経の痛みであるため、非常にするどく、大人でも泣きそうになる痛みです。
耳から汁がでる”耳だれ”は耳漏とも言いますが、中耳炎など大切な病気が潜んでいますのできちんと受診されてください。生まれたての赤ちゃんは時々”胎脂”といってお母さんのおなかの中で赤ちゃんを守ってくれていた成分の可能性もありますので、きちんとお掃除すれば心配いらない事もあります。
赤ちゃんは当然生まれながらに言葉をわかっている訳ではありません。きこえの発達段階は次のように発達します。
第1段階:音に気づく(お母さんの呼びかけに振り向く)
第2段階:環境音に気づく。ことばの大まかな聞き取り
第3段階:母音の聞き取り、予測性の高い言葉の聞き取り
第4段階:子音の聞き取り、文章の聞き取り
第5段階:自由な会話
日本では産婦人科で出産時にきこえのスクリーニング検査を行い、難聴の疑いがあれば耳鼻科での2次検査を勧められます。統計では約2,000人に1人生まれつき聞こえの悪い赤ちゃんがいると言われています。発達の早い段階での対応が大切なのはこれらの段階を踏まえて、早期からの介入が大切だからです。生まれたての赤ちゃんは大人と同じ聞こえ方ではありませんが、約8ヶ月でほぼ聞こえは完成するとされています。ことばの発達には聞こえの発達が不可欠ですので、何かことばがおかしいとか、遅れが目立つ時には耳鼻科受診が必要です。
小児の精密検査が必要な場合、当院で検査が難しいときは、総合病院を紹介します。
赤ちゃんはおなかの中でいろんな音を聞いている
胎教ということばがありますが、おなかの赤ちゃんはいつ頃から音がわかるのでしょうか?
発生学的には妊娠がはっきりする4週ごろから耳の原型が出現し、8週頃には三半規管や蝸牛が見えています。その後20週ぐらいにはお母さんの血流や外界からの音を聞いていると言われています。ただ、羊水につかっているのではっきりは聞こえていないと言われています。
こどもの中耳炎と鼓膜切開
耳から汁がでるのは心配?
生まれて数週から数ヶ月の赤ちゃんで耳あかが汁のように感じる場合は”胎脂”といってお母さんの羊水が固まったものの場合が多く、心配ないことが多いのですが、熱がでて耳だれが起こった場合は中耳炎による鼓膜穿孔などの場合もあり、治療が必要です。
むしろ、耳だれが生じた後、熱が急に下がる場合は鼓膜の奥に溜まった膿が流れ出すことで炎症が改善傾向の可能性もありますが、汁を放置すると炎症がおさまりにくい場合もあり、きちんと耳鼻科で診察を受けてください。中耳炎の場合は今後も繰り返す体質である場合もあり、菌の検査を行います。繰り返し中耳炎を起こすのは、小さいお子さんの特徴ですので、大きくなるときちんとなおってくれることも多いものです。難聴が固定しないためにも小学校に上がるまではきちんと通院をお願いします。
鼓膜切開はどのようなとき必要なの?
中耳炎は耳鼻科の病気です。小児科で鼓膜切開不要論を唱えられる場合もありますが、小児耳鼻咽喉科学会が中耳炎治療のガイドブックを作成しており、耳鼻科医はそれに基づいた(医療上の証拠に基づいた:EBM)治療に心がけています。もちろん不要な切開は極力行わないのが大切ですが、抗生剤で効きにくい難治性中耳炎には鼓膜切開や鼓膜チュービングを積極的に行った方が、真珠腫などの複雑な中耳炎に移行せずにすむ場合もあります。何より治る中耳炎はきちんと治療経過を良い方へ導くことが必要です。特殊な中耳炎(好酸球性中耳炎など)の場合はきちんと切開してあげないと難聴が進行する場合もあります。”必要以上に鼓膜切開を悪者扱いしない、でも必要最小限にとどめる”ことが大切です。
切開してしばらくは耳から血や汁がでますが、よっぽど悪化しないかぎりは入り口をやさしく拭き取ってあげることが大切です。処置はドクターが必要と考えた時に再来をお願いしますのできちんと処置をしに来院してくださいね。
みみが痛い
そもそも痛みとはどのようにして感じるのでしょうか?
痛みには大きく分けて3つに分けられます。
・炎症や刺激による痛み(侵害受容性疼痛)
・神経が障害されることによって起こる痛み(神経障害性疼痛)
・心理、社会的な要因によって起こる痛み
耳の痛みは炎症によって生じる(1)が理由となる他に、三叉神経や舌咽神経痛などの神経痛(2)でも生じます。(1)は中耳炎と外耳炎がありますが、こどもの耳痛はほとんどが急性中耳炎です。大人の場合は耳かきなどによる外耳炎などに次のような原因も考えられます。慢性の痛みの中には(3)が当てはまることもあります。
私たちは痛みの原因を早く診断して的確な治療で苦痛を和らげるように心がけています。
みみが聞こえにくい
聞こえのメカニズムのどこがどのような理由で悪いのかを考えて診断していきます。必要に応じて検査を専門的な検査を行っていきます。
”聞こえのメカニズム”でもお話ししたように、音の伝わりを順番にたどって、どこが悪いかを犯人探しのように見つけていきます!
聞こえの悪さには大きく分けて2つに分けられます。
・本当に聞こえが悪くなった
・聞こえがおかしい(耳が詰まった感じ、自分の声が響く感じ)
みみが聞こえにくい原因
外耳:耳あか(耳垢塞栓)、外耳炎、外耳道真珠腫、外耳癌
中耳:中耳炎(滲出性中耳炎、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎、鼓室硬化症)耳硬化症、耳管開放症など
内耳:内耳炎、内耳奇形、メニエール病、突発性難聴、ムンプス難聴、内耳自己抗体病、老人性難聴など
聴神経:神経炎、聴神経腫瘍など
脳:老人性難聴、機能性難聴(心因性難聴)、脳腫瘍など
聞こえの検査
どの部分が悪いのかによって必要な検査が異なります。
一番の基本は聴力検査です。聴力検査でもっともポピュラーなのは標準純音聴力検査と呼ばれるものです。この検査は様々な高さの音をヘッドホンをつけて音をきいてもらい(気導検査)、耳の後ろに当てた骨を伝わる音(骨導検査)とのギャップを調べることで、中耳や内耳の聞こえを評価するものです。内耳検査は他にもいろいろありますが、自記オージオメトリーなどの検査がよく知られています。この検査は内耳性のものかを客観的に判定する事ができ、思春期に多い心因性難聴の診断に非常に有効です。
また、ピーピー、プープーの音(純音)は聞こえても、ことばの聞き取りが悪くなることもあり、音をことばできいていただく”語音聴力検査”が必要な場合もあり、補聴器のフィッティングにも必要です。
中耳機能検査としてはティンパノグラムで耳と鼻をつなぐ管(耳管)の機能をチェックします。小児に多い滲出性中耳炎などの診断や、顔面神経麻痺のときのアブミ骨筋反射を測定する事で、治療方針をより精密に判断することが可能です。
耳たぶのはれはどんな病気が考えられるの?
柔道家に耳たぶが分厚い方がおられますが、耳たぶの軟骨と皮膚との間には炎症が起きやすく、貯留物が溜まりやすいのが特徴です。耳たぶは軟骨の上に薄い皮下組織を介して皮膚に覆われています。このため、機械的刺激に弱く炎症が軟骨に波及しやすい特徴があり、ひと度難骨膜に炎症が及ぶと全体にすぐ広がり、耳たぶ全体が赤くなったり、血の溜まりが生じたり、最終的に耳たぶが変形をきたします。ピアスなどの孔を不潔に保つと、感染で耳たぶが変形することもあります。先にお話した柔道家の耳たぶの変形は俗に柔道耳といわれます。畳と激しく接触することで炎症が生じるとされます。
めまいがする
耳鼻咽喉科で扱うめまいと脳神経外科で扱うめまいはどこが違うの?
”めまいがするぐらいの衝撃””あまりにもびっくりしてめまいを感じた”などなど、めまいという言葉は日常のいろいろな場面で使われます。
めまいを感じる方は、高齢化の影響で年々増加傾向で、突然のめまいにびっくりする方も多いのが実情です。
めまいは患者さん本人以外から見える症状が少なく、だからこそ、病院に行ってもめまいの症状をきちんと説明するのは非常に難しいものです。
めまい感には英語でvertigoとdizzinessがありますが、ざっくり言うと回転するめまいがvertigoで回転しないふらふらしためまいがdizzinessです。つまり、”ぐるぐるめまい”と”ふらふらめまい”の2つからなると思ってください。
耳鼻咽喉科で扱うめまいはぐるぐるめまいが多いのですが、軽い時はふらふらめまいと感じることもあります。
めまいの原因となる疾患は様々で、脳神経外科や神経内科が扱うめまいとオーバーラップすることも多いですが、一番大切なのは”めまい以外にどんな症状があるか?”です。
耳鼻咽喉科で扱うめまいの場合、聞こえが変わった感じがする(聞こえにくい、耳鳴り、耳がこもって音が響く)、暗い場所でつまずきやすくなった、などの症状が出ることが多いとされています。一方、手足のしびれがある、ろれつが回りにくい(話しにくい)、ものが飲み込みにくいなどの症状がでると、脳などの”中枢”に異常がある可能性があるため、脳神経外科で精密検査が必要と言えます。専門的には脳からくるめまいを”中枢性めまい”、耳からくる、めまいを”末梢性めまい”と呼び、末梢性めまいが耳鼻咽喉科が扱うめまいの代表例と言えます。
手足のしびれやろれつが回らなくなったなどの”危険なめまい”以外の、例えば最近ふらふらしやすくなったと感じた時には、まず耳鼻咽喉科を受診して、精密検査を受けてください。
からだのバランスはどうやってとっているの?
からだのバランスを総合する指令センターは脳の後ろ側にある”小脳”という場所で行われます。
めまいに関係ある器官は数多くありますが、小脳に入ってくる情報は主に次の4つです。
・三半規管、耳石器など内耳からの加速度情報
・眼からの視覚情報
・脊椎などから得られる、姿勢に関する情報(深部知覚と呼ばれます)
・体の筋肉(主に手足や腰の筋肉)から得られる知覚情報
これらの情報が異常をきたすと、めまい感を感じます。つまり実際のからだの動きから予想されるバランス情報と内耳からくる情報に差があると、小脳が混乱してしまうのです。
例えば暗いところでは眼からの情報が得られませんので、その他の情報が脳に伝わりにくいとふらふらします。夜間にトイレでつまずきやすい、などの症状もこれらに関係があります。
また人類は二足歩行をはじめてからバランス能力を高度に発達させてきました。成長の段階をみても、赤ちゃんの首がすわり、ハイハイし、立ち上がり、歩けるようになる一連の成長は、実はさまざまな信号を元に、小脳が少しずつバランス調節できるようになる”小脳の成長過程”とも言えるのです。同様に寝たきりのお年寄りや、最近話題の宇宙飛行士さんは筋肉や重力の情報が脳に伝わりにくいため、次第にバランスよく歩けなくなってしまいます。
めまいを良くする第一歩は、健康に歩けることなのです。さあ、ウォーキングなどできることから”めまいになりにくい体質作り”を目指しましょう!寝たきりを防ぐのは実は日頃のちょっとした工夫からです!
また、小さいお子さんはかけっこや、公園遊びで平衡感覚を成長させましょう。遊ぶことで平衡感覚は研ぎすまされます。小さい頃の自転車の練習を思い出してください。
めまいを起こす病気
原因によってかかる科がかわります。
・中枢性めまい(脳の病気によるめまい)→脳神経外科、神経内科
・内耳性めまい(内耳の三半規管、前底神経、耳石器の異常からくるめまい)→耳鼻咽喉科
・首からくるめまい(脊椎の異常によるめまい)→整形外科
・自律神経の異常からくるめまい(いわゆる立ちくらみなど)→耳鼻咽喉科、心療内科、小児科
・老化現象としてのめまい→内科、耳鼻咽喉科
・心因性のめまい→心療内科
めまいの検査、診断
まずは問診からです。めまいの性質として、どのようなタイミングでめまいを感じるのか、どれぐらい持続するのか、回転するのか、ふらふらが中心なのか、歩行でふらつきやどちらかに傾くことはないかなどが大切です。
耳鼻科ではまずは聴力検査を行います。ヘッドホンをつけてボタンを押すだけの痛みの無い検査です。聴力の左右差があれば有名な”メニエル病”を疑います。
重心動揺検査では、目を開けたときと閉じたときでふらつきの程度が変化するかを測定します。機械の上にたつだけの簡単な検査です。約2分で終了します。
眼振検査では注視眼振検査と頭位眼振検査があり、目の動きを主に観察します。頭を左右、上下に動かした時にめまいがする病気でもっとも有名なのは、”良性発作性頭位めまい症”とよばれるものです。
その他、いわゆる”立ちくらみ”の症状があれば血圧検査、貧血の症状があれば採血を行うこともあります。
脳神経の障害を他に認めた時は、脳神経外科と連携した精密検査が必要です。(CT,MRIなど)
めまいの治療
基本は保存的治療(お薬の治療)です。
めまいがひどい時はメイロンという注射をしたり、入院施設を紹介することもありますが、たいていのめまいは、飲み薬で治療します。
めまい止めや、循環改善薬、ビタミンB12などの投与を行う他、メニエル病を疑う場合はイソソルビドという(良薬口に苦し!)水薬が良く効くこともあります。
危険なめまい〜耳鼻科以外のめまい(中枢性めまい)〜
・脳腫瘍(聴神経腫瘍など):繰り返すめまいの他に変動する難聴をきたすことがあります。
・多発性神経炎:めまい以外に他の脳神経症状を生じることもあります。
・脳梗塞などの”脳卒中”:ろれつが回らない、手足のしびれがある、皮膚の感覚異常があるなどの脳神経症状を生じる場合は緊急を要するものもあります。
耳鳴りがする
耳鳴りはジージー蝉の無くようなものから、ピーピー金属音のような高い音まで様々なものがあります。ほとんどが害のないものといわれていますが、本人に取っては不快この上ないものです。聴力検査で難聴による耳鳴と診断されても、CTやMRI検査で脳腫瘍を認めることもあり、特に左右差のはっきりした難聴を認める場合には要注意です。最近はTRT療法といって、雑音をわざと聞いてもらいながら、耳鳴りに慣れて頂く治療も開発されています。他にビタミン剤、循環改善剤、安定剤や漢方を用いて良くなる患者さんもおられますのでご相談ください。
慢性化した耳鳴りの治療法
耳鳴りでお困りの方はずっと悩み、なかなか治らないことが多いとお気づきと思います。
これは耳鳴りはかなりの方が感じているものの、それが固定されるのには脳内で耳鳴りを警戒する悪循環が出来上がったためとされています。そのため、再度脳を教育することで耳鳴りが支障を来しにくいレベルまで軽くなるというのが、”TRT理論”です。
どうしても慢性化した耳鳴りは専門の施設に紹介し、TRT理論に基づいた治療を行います。
みみの病気あれこれ
■滲出性中耳炎
人は中耳の気圧調節を”耳管”というチューブで行っています。耳管は鼻の突き当たりと中耳(鼓室)を結ぶ3~4cmの管ですが、この調節がうまく行かないと”耳が詰まった感じ””自分の声が響く感じ”で不快に感じます。よくある、飛行機や高い山に登った時に感じる”あれ”ですね。耳管が詰まったままだと炎症が起きたり、鼓室に水がたまり(滲出液)聞こえが悪くなります。特に耳管の成熟していないこどもや、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎(蓄膿症)などで生じることが多く、こどもは小学校に上がった頃ぐらいから軽くなる子が多くなります。治療に抵抗する場合は、鼓膜を切開したり、鼓膜にチューブを数年留置することがあります。(チューブは外来日帰りで手術可能です。当院でも行っています。)
大人の方で片方の滲出性中耳炎を繰り返す場合は、鼻の突き当たり(上咽頭)や鼻の奥に腫瘍がある場合もあり注意が必要です。
■慢性化膿性中耳炎
鼓膜は通常直径約1cm、厚さ0.1mmの膜で、音を耳小骨に伝える働きがあります。音の振動はは面積比、てこ比で増幅、蝸牛の内耳のリンパ液を振るわせることで電気信号に変えられます。鼓膜は非常に再生能力が強く、破れても環境が整えば数日で閉じる性質がありますが、炎症が持続すると穴の周囲の皮膚が穴を裏打ちして閉じにくくなる事があります。これが慢性(穿孔性)化膿性中耳炎とよばれる状態です。孔が開いたままになりますので、外耳の炎症が中耳に波及したり、耳だれが止まらなかったりして聞こえが悪くなります。
治療はまず炎症を治療した後、手術で閉じる事が必要となる可能性があります。炎症が長く続くと耳小骨が硬くなり聞こえが悪くなります。
■真珠腫性中耳炎
さきほどの”しんしゅつせい”中耳炎と読みは似ていますが、全く異なる中耳炎です。顕微鏡でみると真の腫瘍では無く、いわゆる”みみあかのひどいもの”と考えられています。
本態は不明ですが、耳孔から掃除がしにくかったり、めまいがしたり、耳だれが止まらない場合には手術が必要となります。さらに放置すると、最悪顔が曲がったり、髄膜炎などを引き起こす怖い病気です。
手術は総合病院を紹介します。術後はまた当院で処置可能です。(数ヶ月毎の通院となります)
当院では最新のCTを駆使して、診断が可能です。
■突発性難聴
ある日突然片耳(ときどき両耳)の聞こえが悪くなる病気です。聞こえの検査で診断します。耳鳴りやめまいを伴うこともあります。原因はウィルスやストレス、睡眠不足などが考えられますが基本原因不明の病気です。治療はステロイドという薬を軸に、抗ウィルス薬や循環改善薬を用いますが、ストレスが原因の場合は入院安静が必要となることもあります。入院では内服ではなく点滴のステロイドを用います。治療は早い程良く(はじめの1週間が大切です!)、長く放置すると治りが悪くなります。
■耳硬化症
鼓膜の奥にはツチ、キヌタ、アブミ骨という3つの小さな骨(耳小骨)がありますが、その一番奥のアブミ骨が文字通り硬くなり動きが悪くなることで聞こえが悪くなる病気です。
病気の原因ははっきりしませんが、東洋人より白人に多く、女性に多い特徴があります。妊娠で急に悪化することがある他、次第に進行する事が多い病気です。
薬で進行を遅らせることはできません。治療は難聴で日常生活に支障を来す前に手術でアブミ骨を取り替えることですが、鼓膜に孔があいた慢性中耳炎の患者さんは1回の手術では完了できないこともあります。
■心因性(機能性)難聴
いわゆる詐聴とはことなり、本当に聞こえにくく感じ、思春期に生じる事が多い病気です。心理カウンセリングなどで治療しますが、原因が取り除かれると自然に戻ることが多いです。
■耳垢塞栓(耳あか)
親から受け継いだ遺伝子の特徴から、乾いた耳あかとしっとりした耳あかの人がいます。外耳道が耳あかを外へ外へと押し流す性質がありますが、固まって塞栓となると聞こえが悪くなったり、炎症が起きたりします。自分で綿棒で奥に押し込んだりすることもありますので、特にしっとりした耳あかの方はきちんと耳鼻科でメンテナンスが望ましいことがあります。こどもがいやがる場合は外耳道を傷つける可能性もあり、お気軽に耳鼻科受診されてください。
■耳管開放症
おもに病気やダイエットなどで急に体重減少した方に起こりやすいとされています。耳と鼻をつなぐ耳管が通り過ぎて自分の声が響いて不快です。体重減少による脂肪減少によるもので、体重を回復させることや、手術で治療することもあります。鼓膜にテープを貼付けることで鼓膜の動きを制限し、効果があることもあります。
■顔面神経麻痺
一見、耳鼻咽喉科で顔面神経麻痺?という感じですが、実は脳神経として脳から外に出たあとは、ほとんどが耳鼻咽喉科領域を通る事から、耳鼻科で検査・治療される事がおおい病気です。脳梗塞など中枢性のものもありますが、ほとんどは末梢性で原因はっきりしないもの(ベル麻痺)やヘルペスウィルスが原因の麻痺(ラムゼーハント症候群)に大きく関係していることが知られています。
■先天性耳瘻孔
耳たぶの発生の過程でできる嚢胞(ふくろ)で炎症を繰り返すことで皮膚や軟骨に炎症を起こします。抗生物質の飲み薬で治る場合もありますが、悪化する前に手術でふくろを摘出することが根本的治療となります。
■メニエール病
内科などで診断されることの多い、メニエル症候群とメニエール病は別の病気です。メニエール病は内耳のリンパ液が浮腫を生じて、回転性めまいを繰り返す病気です。基本治療は、抗めまい薬、循環改善薬、利尿剤の一種であるイソソルビドを用います。女性に多く、ストレスや自律神経に関係するため、抗不安剤や自律神経調節薬を用いる事もあります。
■良性発作性頭位めまい症
内耳の小さな石(耳石)が浮遊することで頭の向きを変えたときにめまいを起こす病気で、内耳刺激が原因です。数週間で改善することがほとんどですが、治りが悪いときは画像診断などの精密検査が必要となることもあります。
■前庭神経炎
さまざまなウィルスにより内耳炎を生じる事で非常に激しいめまいを生じます。かぜの様な症状に引き続き起こる事もあります。眼振も同じ方向に強く見られ、頭の位置をかえてもその性質はかわりません。ひどいときは入院治療を要します。
■遅発性内リンパ水腫
原因不明の難病です。メニエール病とにて、片側の高度難聴と回転性めまいを繰り返します。
■急性中耳炎
ウィルスや細菌の感染によっておこる鼓膜や中耳粘膜の炎症です。主な原因は風邪やインフルエンザなどですが、ほとんどが耳管(耳と鼻とをつなぐ管)をたどって中耳に感染が波及するため、鼻の治療が非常に重要です。鼓膜を観察することで中耳炎の状態を診察しますが、鼓膜は赤くなったり、薄くなる他に、外耳方向へ膨れ上がると疼痛は強くなります。こうなると抗生剤で効きが悪くなり、鼓膜切開が必要となることがあります。難聴が起こったり、耳だれが出ることもあります。治療が不十分だと”滲出性中耳炎”として慢性化します。
■耳管狭窄症
中耳と咽頭、鼻腔をつなぐ管を耳管といいますが、あくびや嚥下で中耳圧と咽頭の圧力(ほとんどの場合大気圧)を調節しています。鼻の粘膜が腫れたり、ポリープや鼻汁で鼻側の開口部が塞がったりすると、このような調節ができなくなり中耳圧が低くなるため鼓膜が内側に引っ張られて耳痛が生じます。同時に自分の声が響いて聞こえたり、耳鳴りが生じることもあります(航空性中耳炎も同様の原因で生じます。)
■外耳炎
耳かきで外耳道皮膚を傷つけることで生じます。外耳道が腫れ上がって狭くなると、聞こえも低下したり汁がでることがあります。耳たぶを引っ張ったり、大きな口を開けることでも耳痛も増悪します。
■咽頭炎
耳以外に副鼻腔炎などでも、耳に痛みを感じることがあります(放散痛といいます。)
■三叉神経痛
額、ほほ、下あごの3つに枝分かれしていることから、この名前がついていますが、鋭い痛みとして有名です。歯の痛みを思い浮かべて頂ければわかると思います。脳周囲の血管が当たったり、炎症で痛む場合、耳が痛いと感じる場合もあります。
■その他のウィルス性疾患
おたふく風邪や帯状疱疹でも耳がいたくなることがあります。耳周りの帯状疱疹はラムゼイ・ハント症候群といって、めまい、耳鳴り、難聴や顔面のしびれを伴うものもあります。