のどの症状

のどは食事をしたり、声をだしたりする時に大切な役割を果たしています。
のどは元気な時は、ほとんどその”ありがたさ”を意識することはありません。むかしから”喉元すぎれば熱さ忘れる”ともいわれてきました。でも、私の専門の一つである頭頸部癌(咽頭癌、喉頭癌、舌癌、甲状腺癌など)になりその機能が低下すると、いかに普通にご飯を食べ、飲み込めて、自然な声で挨拶できていたことがいかに大切であったかを思い知ることになります。私はそのような患者さんを20年以上、診察、治療させて頂き、がんを早期で発見する重要性を身にしみて感じました。”うちに紹介されてくるのがあと、1ヶ月早かったらもっと治療がうまいくいったのに”とか、”もう少し癌が進行していなければ手術しなくて済んだのに”、という思いを何度味わったかわかりません。今後せめてそのような思いをする方が一人でも少なくなることを祈りながら、心を込めて診察を行っていきたいと思います。

のどは非常に敏感で違和感をしばしば感じ、何かを私たちに語りかけてくれます。その反面、悪性腫瘍ができても、大きくなるまで痛みや飲む込みづらさ、声がすれは進行しないと症状として現れにくいという厄介な一面もあります。
耳鼻咽喉科は、声を出すこと(音声)、飲み込み(嚥下)、息を吸うこと(呼吸)、歯切れよく話すこと(構音)などの専門家ですので、飲み込みにくい、声が調子悪い時はきちんと受診して専門的に診断することが非常に大切になってきます。
のど
のどの解剖

のどが痛い(咽頭痛)

のどは外界との窓です。様々なウィルスや細菌の感染が原因で咽頭炎や喉頭炎、扁桃炎を起こし、”のどの痛み”を感じます。
急性鼻咽頭炎はいわゆる鼻の突き当たり、のどの天井の腫れで風邪のひきはじめでおこることが多い炎症です。
急性咽頭炎はのどの入り口が真っ赤になるもので、お子さんのではさまざまなウィルス感染によりおこります。
急性扁桃炎は口の周囲にあるいわゆる”扁桃腺”の炎症でおこります。中には溶連菌感染やEBウィルス感染による強い炎症がおこることもあり、扁桃炎を繰り返すことで心臓や腎臓などの大切な臓器に影響を及ぼす事もあるため専門的な診断の上、治療方針を決定する事が重要です。時に呼吸困難を起こしうるのどの腫れや、がんなども痛みを伴います。(がんは必ずしも痛みを伴うとは限りません)
ちょっとひとこと
夏風邪といえば”プール熱””手足口病””ヘルパンギーナ”ですが、それぞれ”ウサギの目(充血)”、”手足口の発疹、口内炎””高熱、口内炎”の特徴があります。いずれもウィルス感染のため、特効薬はありませんので、脱水に注意して感染が広がるのを防がなければなりません。特にアデノウィルスは感染力が強く、タオルを共有するだけでも感染のリスクがあるため、症状消失後2日は学校、幼稚園に出席できないことになっています。
溶連菌感染症はよい迅速診断キットがあるので、のどを拭ったものをキットに浸けるだけで10分足らずで診断がつきます。A群溶血性連鎖球菌が病原体でイチゴ舌、腎炎、リウマチ熱(心臓病)などの強い合併症が特徴で頭痛、嘔吐、くびのリンパが腫れる事もあります。抗生剤を1週間ほど使いますが、感染力が強く注意が必要です。
RSウィルスは喉の痛みの他に鼻水がおおくなり、乳幼児では気管支炎、肺炎に移行することもあり、注意が必要です。検査キットで診断します。

のみこみにくい、食べる時にむせてしまう(嚥下障害)

おいしいものをお腹いっぱい食べる。こんな当たり前のことができないときは、とても辛いものです。
上手にのみこむためにはたくさんの関門があります。
口の中で食物をよく噛んで(咀嚼)のどに送り込み(口腔期)、喉頭が上昇して、蓋(喉頭蓋)が閉じて気道に入らないように食道に送り込み(咽頭期)、食道を滑り落ちる(食道期)にわかれます。特に咽頭期は非常に繊細なプロセスなので、ここが様々な原因で上手にできないと、簡単にむせてしまったり(誤嚥)上手に食道に送り込めなくなるのです。誤嚥を起こすとひどい時には肺炎(誤嚥性肺炎)を起こし、命に関わる事もあります。

原因はいろいろありますが、脳の病気(脳梗塞、脳出血など)や神経、筋疾患のほか、のどの腫瘍や炎症でも起こりえます。
診断は喉頭ファイバーで着色水をのむ検査や、透視検査などがあります。
飲み込みが悪いときには、きちんと耳鼻咽喉科を受診されてください!

声がかすれる、声が出にくい

声帯は左右一本からなる約2cmのひだでV字型をしています。呼吸や楽にしているときは開いていますが、声を出す時は両声帯が真ん中で閉じて声がでます。
しかし、ポリープや炎症、腫瘍などで声を出す時に隙間ができるため、張りのある声が出にくくなります。喉頭ファイバーという、細い内視鏡を鼻から入れて診断をつけます。

のどの違和感

違和感は”通常と異なる感じ”ですが、原因が炎症以外に誤嚥、逆流性食道炎、甲状腺肥大による圧迫、鬱病などの精神疾患などでも治りの悪い違和感となります。しかしながらもっとも注意すべきは、咽頭がん、喉頭がんも初期からの症状は早期がんは違和感のみの場合が多い事です。喉頭ファイバーでなどでの精密検査が重要です。くすりでなおりが悪いときは繰り返し検査したり、CTなどのさらなる精密検査が必要となる可能性があります。

息が苦しい

息が苦しいとお感じの患者さんは、本当に酸素が足りてないのか酸素が足りていても苦しいと感じているのかをきちんと評価することが大切です。
人は大気中の酸素を吸って体で利用し、老廃物と二酸化炭素を出しながら生命を維持しています。
よって息が苦しいのは酸素が足りないことが多いのですが、例えば”緊張して胸がいっぱい”などの心理的な”苦しい感じ”もあります。
体内の酸素の量は指先で簡単に検査できます。苦しい原因は実は様々で、肺炎などの呼吸器疾患、心不全・不整脈などの心疾患、呼吸筋麻痺などの神経疾患、そして気道の狭くなった耳鼻咽喉科疾患です。気道が狭くなっているときは緊急性がありますので、入院となる可能性もあります。緊急性が高い病気の一つに急性喉頭蓋炎といって、細菌やウィルスの感染などでのどの蓋がはれて気道が狭くなる病気があります。ステロイドというお薬を使ったり、最悪のどぼとけの下に孔を開け(気管切開術)窒息を防ぐ必要があります。早め、早めの受診が大切です。

咳が止まらない

咳の原因もさまざまなものが考えられますが、気管支、肺などの”下気道”のみならず、耳鼻咽喉科領域(”上気道”)からくる咳も注意が必要です。ほとんどが炎症が原因ですが、稀に腫瘍による刺激が原因となる場合があるからです。咳は本来異物や痰をを取りのぞき、のどを良好な状態に保つための”咳反射”の一部なので、無理にとめない方がいい場合もありますが、長くひどく続く咳は体力を落としたり、精神的にもかなり苦痛を強いる事になります。夜間は不眠に悩まされ、日中は人目を気にする生活は何より日常生活に支障をきたします。
呼吸器内科医師との連携プレーが非常に重要です。
当院もいくつかの連携協力病院と協力して治療にあたります。

口内炎(くちの痛み)

口内の粘膜は細菌やウィルスなどでしばしば炎症をおこし、痛みを伴う口内炎を生じます。栄養が偏ったり、ビタミンBが不足している場合や、亜鉛吸収不良、胃炎などで口内炎がおこりやすくなります。軟膏を塗ったり不足物質補充などを行う他、口腔環境が悪いときは歯科にも相談します。
ひどい口内炎は口からものを取るのが難しくなるため、点滴入院が必要となることもあります。
稀に膠原病や免疫不全でも繰り返します。

口が渇く

唾液は年齢とともに分泌が少なくなり、お年寄りでは口が渇いたり、口内炎が起こりやすくなります。平均的な唾液量は1日約1.5リットルで食物を円滑に滑らせる他に、口の中の雑菌の繁殖を抑えます。口内乾燥感がきっかけで見つかる病気は意外と多く、シェーグレン病などの膠原病なども原因のひとつです。抗うつ薬や高血圧のお薬、パーキンソン病の薬等でも乾く事があります。鼻が詰まって口呼吸しかできない時にも乾きますので、原因をしっかり調べる事が大切です。

味がしない

味覚の働きには、食べ物の味を区別する事で危険な食物に気づきやすくする、食欲刺激、消化管の動きを活発にするなどがありますが、味覚が落ちるとこれらの機能が低下します。味覚低下の原因は多岐にわたり、年齢によるもの、亜鉛不足、舌の炎症、唾液分泌低下、放射線治療後、降圧薬などの薬によるものが多いとされます。亜鉛補充や漢方を用いて体質改善を目指します。鼻が悪いときも味覚が低下しますので、鼻の治療も大切です。

のどの病気あれこれ

■急性咽喉頭炎、急性鼻咽頭炎
咽頭とはくちから声のでる声帯(喉頭)や食道の入り口までの部分をさしますが、ウィルスや細菌などで炎症をくり返す場所といえます。十分に体力のある場合は病原体は免疫細胞の働きで除去されますが、小児や高齢者は免疫力が弱く、繰り返し炎症をおこしえます。はやく炎症を取り去るために、原因しだいでは消炎剤や抗生物質を使います。
■扁桃炎、扁桃肥大、アデノイド肥大
のどの入り口にある”扁桃腺”の正式名称は”口蓋扁桃”と呼ばれます。
こどもは生まれつき大きいのが普通ですが、あまりにも大きいといびきや無呼吸、繰り返すのどの痛みや高熱の原因になります。一般的に年4回以上炎症を繰り返す場合は手術の適応になりますが、病状を良く見極めて手術を検討することが大切です。扁桃炎がひどい場合、”病巣感染症”といって、腎炎や皮膚病、心臓の炎症をきたすこともあります。
アデノイドとは鼻の突き当たりにある、上咽頭にある扁桃組織でこどものころは大きく、いびきや無呼吸、滲出性中耳炎、副鼻腔炎や鼻づまりの原因となる場合があります。ひどいときは口呼吸が目立ち、学習障害を生じることもあり手術治療となります。
■扁桃周囲膿瘍
扁桃炎がひどくなると、くびの腫れや口が開けにくくなり、高い熱をきたします。
扁桃周囲に膿がたまったもので、外科的に切開排膿(腫れている部分を切開して膿をだすこと)が必要となります。
稀に頸部膿瘍に進展し、命に関わる可能性もあるため、ひどい扁桃炎は早めに耳鼻咽喉科を受診される事をお勧めします。
特に片側が腫れた感じ、口があけにくい感じには要注意です!
■急性喉頭蓋炎
のどの入り口には喉頭蓋という文字通り”蓋”があります。ここが腫れると違和感、飲み込みにくさの他に、息苦しくなる事があります。鼻から喉までファイバーで詳しく調べて、窒息の危険性を評価します。軽度の腫れの間はステロイド薬(内服、吸入)で軽快することがほとんどですが、急に腫れてくる事があり、その時緊急に気管切開が必要になります。耳鼻咽喉科の数少ない救急疾患のひとつです。
■シェーグレン症候群、IgG4関連顎下腺炎
口が乾きやすくなった、との自覚で発見されます。分泌腺の炎症で目が乾く他に、腎臓や肺の炎症を起こすと、ステロイドで治療が必要となります。
膠原病内科と一緒に治療方針を決めますが、私の専門でもあります。
■声帯ポリープ、ポリープ様声帯
声帯はV時型で左右2本からなりますが、その一部が腫れるときれいに閉じる事ができず、声を出す時に一部隙間ができます。大きな声を出す事が多い人や、喫煙習慣を持つ方には両方の声帯が水ぶくれを起こして、特に声が悪くなる事があります(ポリープ様声帯)。声の安静、ステロイドの吸入薬や手術が治療となります。ポリープ様声帯の手術は特に高度な知識が必要なため、専門病院を紹介します。
■嚥下障害
日頃何気なく行っている”ものを飲み込む”という行為は、実は複雑ないくつもの筋肉の動きが組みあわされたもので、そのひとつでも不調となると上手に飲み込めなくなります。これを嚥下(えんげ)障害のいいます。脳梗塞の他、のどの炎症やできもの、筋肉神経の病気でも飲み込みの力は低下します。
■頭頸部がん(舌がん、咽頭がん、喉頭がん)
くびのしこり参照
ちょっとひとこと
感染症罹患児の学校幼稚園などの出席停止についてまとめてみました!(2016年現在)
インフルエンザ:発症から5日経過、かつ解熱後2日経過時(小学生)、解熱後3日経過時(幼児)
百日咳:特有の咳がおさまった時、または抗生剤5日投与後
おたふく風邪(ムンプス):耳下腺、顎下腺腫脹後5日経過かつ全身状態良好(解熱)
プール熱(アデノウィルス):症状消失後2日経過
溶連菌感染症(目安):抗生剤内服開始24時間で解熱、全身状態回復
マイコプラズマ(目安):解熱後2日程度
みみ・はな・のど・くび