首のしこり(甲状腺)

くびのしこり

首のしこりに気づいたら….

首は日頃比較的良く触る場所です。ネックレスをしたり、ひげ剃りもしますし、鏡で直接みることも多いものです。 首のしこりは必ずしも悪いものとはいえませんが、場合によってはリンパ腺の炎症や腫瘍、がんの転移等の可能性もありえます。 まずは数日間変化をみていただき、変化無ければ耳鼻科を受診してください。 私は九州大学や医療センター、浜の町病院で頭頸部がんを長年診察治療してきました。その貴重な経験を活かしていきたいと思います。
くび

首のしこりの原因

首には甲状腺、耳下腺(おたふくではれる唾液腺)、顎下腺などの臓器や、リンパ節などがひしめいています。さらに咽頭、喉頭などの組織もあり、腫れに気がついた時には”脂肪のかたまりだろう”と決めつけず、きちんと検査することが大切です。
まず甲状腺ですが、痩せた方は正常の甲状腺が腫れて見えることもあります。しかし、エコーできちんと評価することが大切です。甲状腺腫瘍なら、微小な石灰化や周囲へのしみこみなどの悪性所見を評価する必要があります。(甲状腺の項参照)
耳下腺はおたふく風邪で腫れる、耳の前から下にかけて広がる唾液分泌腺ですが、時々腫瘍をきたします。耳下腺がんは非常に稀ですが、良性腫瘍のワルチン腫瘍、多形腺腫などは時々出会います。私も耳下腺癌の診断治療に関しては、全国学会のシンポジウムなどでお話させていただきましたが、病理組織診断が非常に難しいのが特徴です。顎下腺は文字通りあごの下にあるやはり唾液腺の一種ですが、唾石症といって石ができたり、自己免疫疾患でも硬く腫れたりします(硬化性顎下腺炎、IgG4関連顎下腺炎)。
小児の顎下にはがま腫といって舌下腺がふくろ状にふくれたりする病気や、リンパ管からなるリンパ管腫ができることもあります。しかし一番多いのは首のリンパ節の増大でしょうか?

首のしこりの検査法

視診触診後、頸部エコーがもっとも重要な情報をもたらします。エコーで周辺への影響や数、内部の変化を観察し、特に正常組織として”リンパ門”がきちんと追えるかどうかで悪性疾患の推測を行います。必要なら造影CTやMRI、細胞検査(針をさして一部の変化を検査する)も行います。耳下腺や顎下腺などの唾液腺に腫瘍ができることもあります。

甲状腺の病気

甲状腺(こうじょうせん)とは?〜女性に知っておいて欲しい臓器、病気〜

甲状腺とは首の真ん中やや下よりにある臓器で、甲状腺ホルモンを作っています。指でのどぼとけ(甲状軟骨)がわかれば、その少し下のイメージです。蝶が羽を広げたような形で気管(空気の通り道)に張り付いており、飲み込むとのどと一緒にごくんと動きます。正常の甲状腺は柔らかく小さいため自分で触ってもよくわからないことが多いのですが、病気になると大きく腫れたり、しこりを感じることがあります。男性より女性に多い病気とされます。甲状腺ホルモンは体のエネルギーや新陳代謝を促すホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌し、成長にも大きく関係があります。ホルモンがターゲットとする臓器は数多く、心臓、筋肉の他、骨、皮膚、消化管、脳にも甲状腺ホルモンを受けるセンサーが備わっています。そのため、甲状腺ホルモンが多すぎたり、少なかったりすると様々な症状が現れてきます。
甲状腺

甲状腺機能異常のセルフチェック!

甲状腺の病気で起こりやすい症状がありますので、いちどチェックしてください!
必ずしも異常とはいえなくとも、検査で甲状腺の異常が見つかることがあります。

甲状腺機能亢進(甲状腺ホルモンが体内に過剰な場合)に生じやすい症状

・胸がドキドキする(動悸)
・最近あせをかきやすくなった
・手が震えることがある
・体重が急に減った
・体に力が入りにくい
・しっかり食べているのに体重が増えない
・いつも下痢気味である
・目玉が飛び出た感じがする、目つきが変わったといわれる
・些細なことにイライラすることが多い
・落ち着きが無くいつもバタバタ動いている
・暑がりになった
・のどの違和感
・首のしこりを感じる
・生理不順が続いている、無月経
・不妊治療中である

甲状腺機能低下(甲状腺ホルモンが不足する場合)に生じやすい症状

・非常に疲れやすくなった、だるく感じることが多い
・妙にやる気がでない
・体重が急に増えた、からだが重い
・脱毛が増えた
・体がむくむ感じがする
・のどの違和感
・寒がりになった(スーパーの生鮮売り場に近寄れない)
・肌がかさかさ乾燥気味である
・便秘気味になった
・いつも眠い、特に昼間の眠気
・生理不順が続いている
・不妊治療中である
・首のしこりを感じる

甲状腺疾患の検査

基本は採血と頸部エコー(超音波検査)の2つの検査です。
甲状腺ホルモンは脳からでる甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(FT3、FT4)のバランスが重要です。採血で甲状腺ホルモン(FT4)が高い時には、脳からでる甲状腺刺激ホルモン(TSH)は現象し、逆に甲状腺ホルモン(FT4)が低い時には刺激ホルモン(TSH)は高くなる傾向があります。(生体フィードバックと呼ばれます)また、甲状腺の性状(血流、大きさ、しこりなど)も診断に重要です。

甲状腺の病気あれこれ

甲状腺機能低下症:橋本病

甲状腺機能が低下すると、新陳代謝が悪くなり無気力で脳の働きが低下し、判断力の低下、忘れっぽくなる等の症状の他、いつも眠くなります。
30代から50代の女性に多い病気です。病気を発見した九州大学教授橋本策先生にちなんで国際的に”橋本病”とも呼ばれています。
精神科でうつ、婦人科で更年期障害と紛らわしいこともあります。
さらに寒がりで皮膚が乾燥し、足を中心にむくみが生じ、髪が薄くなります。”老化現象が早まった”イメージです。
甲状腺の炎症で甲状腺自体が働かなくなった状態が”橋本病”で原因は甲状腺に対する自己免疫反応とされています。血液検査で甲状腺ホルモンが低くなる他、甲状腺刺激ホルモンが上昇したり、甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が出てくることもあります。稀にヨードの過剰摂取(昆布やうがい薬)による甲状腺機能低下の報告もあります。
治療は甲状腺機能があまり低下していなければ、経過観察でよいことも多いですが、しこりが大きくなったり、悪性腫瘍が発生することもありますので、時々超音波(エコー)検査や採血で経過をみていくことが大切です。甲状腺機能が低下してきた場合には、不足する量の甲状腺ホルモンを内服して頂くことになります。不足を補うことが大切ですので、高血圧や糖尿病などと同様に長い期間の治療となります。きちんと薬を補充しさえすれば通常の運動や妊娠などが可能です。

甲状腺機能亢進症:バセドウ病

甲状腺が非常に活発に機能した状態です。橋本病と逆に新陳代謝が活発になり、つねに”走っている状態”となります。つまり、微熱が続き、脈が早く、汗をかきやすくなったり、暑がりになったりします。精神的にもイライラがつのり、不眠、異常な食欲、体重卯減少の他、目玉が飛び出てきたり、甲状腺全体が強く腫れたりします。検査は採血とエコーで、採血では甲状腺ホルモンが高く、TSHレセプター抗体という自己抗体が高いと確定診断です。エコーでは腫れた甲状腺がまだらに見えます。血流検査で血流が増加します。しこりと紛らわしいこともあります。

無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎

甲状腺の一時的な炎症は甲状腺ホルモンの急速な変化を起こし、甲状腺ホルモン低下症や亢進症と同様の症状を起こします。多くは一過性で自然に正常化しますが、妊娠後や橋本病、バセドウ病の治療経過中に生じることもあります。亜急性甲状腺炎は首の痛みと熱を生じステロイドや消炎鎮痛剤を用いることもあります。

甲状腺のしこり(甲状腺結節)

首のしこりでリンパ節の炎症とならび多い病気です。
甲状腺のしこりは大きく分けて悪性と良性に分かれます。
悪性を疑う場合はきちんと精密検査が必要なのはいうまでもありませんが、良性でもかなり大きくなることもあり、細胞の検査やCT検査、手術が必要となることもあります。私は20年の頭頸部外科医として甲状腺、耳下腺を中心とした手術執刀を行ってきましたので、この分野は専門分野のひとつです。
■甲状腺良性腫瘍(腺腫、腺腫様甲状腺腫、甲状腺嚢胞、ホルモン産生腫瘍:プランマー病)
基本経過観察となることが多いですが、サイズが大きかったり、食道や気管を圧迫する症状(飲み込みにくい、圧迫感が強い、息苦しい)があれば手術が必要となることもあります。5cmを越える巨大な腫瘍や、胸の中まで入っていった腫瘍は摘出が必要とさてています。ホルモンを過剰に産生するものをプランマー病とよんで区別します。
■甲状腺悪性腫瘍
いわゆる”がん”です。乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん、悪性リンパ腫
頻度的にはほとんどがおとなしい乳頭がんですが、急にたちが悪くなる現象(悪性転化)もあり、油断できません。
乳頭がんは頸部エコーで周囲への浸潤像(しみこむ様子)、境界部分がいびつになったり、砂のような石灰化(砂粒状石灰化)、頸部リンパ節への転移などを検査する必要があります。最近の学会でのトレンドは”小さいおとなしい乳頭がんは経過観察”となる場合もあります。もちろん急に大きくなるものや、エコーで浸潤傾向があるもの、リンパ節への転移が疑われるものは小さくてもきちんと手術による治療が必要です。経験豊富な専門医の診察が特に重要です。術後の定期エコーやホルモン採血、チラージンの内服処方は治療経験豊富な当院へお気軽に相談ください。

頸部リンパ節の病気

首のリンパ節の腫れの種類とは?

首のリンパ節はのどや口、歯、鼻など外界と接する様々な部分の影響を受けやすいのが特徴です。単純にどこかに炎症があってその影響で腫れるリンパ節を反応性リンパ節炎と呼び、多くは数週間で縮小傾向となり、この場合は経過観察で良いと思います。 しかし、中には若い女性に多く痛みをともなうリンパ節の自己免疫炎症(亜急性壊死性リンパ節炎)、ウィルス性リンパ節炎(伝染性単核球症)、特殊炎症(木村氏病など)もあり、耳鼻科専門医の診断を受けることが大切です。特に悪性腫瘍のリンパ節への転移は、最近増えている中咽頭癌や上咽頭癌に多く、ファイバーでのどをしっかり観察してもらうことが鍵になります。全身血液疾患として悪性リンパ腫という病気もあります。いずれにせよ、悪性の除外がもっとも大切なことです。

頭頸部腫瘍:首のしこりの原因となる怖い病気〜頭頸部がんのリンパ節転移について〜

くびのしこりは、先に述べたように癌の転移の可能性もゼロではありません。他のがんと同様、原因をきちんと調べ、がんであれば早期診断、早期治療が基本です。耳鼻科領域にできるがんは”頭頸部がん”とよばれ、発声、嚥下、呼吸など生活に直結する場所にできるがんですので、専門的診察、診断が非常に重要であるのはいうまでもありません。実際に頭頸部がんの最先端の治療に携わったもののみが知ることができる”正常と少しちがう”という経験値を大切にしていきたいと思います。

頭頸部がんの年次推移

従来から喫煙者のがんと知られてきた、喉頭癌、下咽頭癌にかわり、近年はHPV(ヒトパピローマウィルス)によるウィルス発癌の代表例である中咽頭癌が増加傾向です。
中咽頭癌は進行するまで咽頭痛、嚥下困難などをきたさないため、”のどの違和感””片側頸部の重たい感じ””血痰”などが続くときは専門医にきちんと診てもらう事が大切になります。早期で発見されればされる程、治療による後遺症が少なく、治癒する可能性が高いからです。

鼻のがん(鼻副鼻腔癌)

なんと癌は鼻にもできます。鼻の項でもお話ししたように、鼻の周囲には副鼻腔という空洞があり、ここに炎症がおきると副鼻腔炎、できものができると副鼻腔癌です。発生頻度は比較的低く、上顎洞>鼻腔>篩骨洞>前頭洞>蝶形骨洞の順です。骨に囲まれているので早期にはほとんど発見されず、副鼻腔炎として扱われることが多いのが特徴です。発見時進行癌が多い理由はここにあり、鼻血、頬の腫れ痛みしびれ、目が飛び出た、などで自覚されます。
外科的切除が基本ですが、近年は放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた”集学的治療”により顔面変形、構音障害、咀嚼、嚥下障害などの後遺症を残さずに治療できる場合もあります。太ももの動脈からカテーテルを入れて患部に直接抗がん剤を注射できるようになってから、手術で大きく取り去り顔面が変形する患者さんは減りました。

口のがん(口腔癌)

口の粘膜は敏感で小さな病変でも気になるものです。口の癌のほとんどは”口内炎が治らない”と自覚されます。時々病院嫌いで大きくなって来られる方や、声や話し方が変わった、飲み込みにくいことで気づかれる場合もあります。ほとんどが口の粘膜からできる癌ですが、まれに口にある小さな唾液腺からできるがん(腺癌)もあります。診断は視診、触診が基本ですが口腔結核や肉芽腫などの良性疾患と似ている場合もあります。
早期癌は切除が基本です。進行癌が放射線治療、抗がん剤治療、手術を組み合わせますが、大きく取れば当然飲み込みや構音に関係します。取り去った場所には腿やお腹から筋肉を移植します。

のどのがん1(喉頭癌)

喉頭とは簡単に言えば声帯付近を指し、つねに音声・呼吸と関係します。喉頭癌のほとんどが喫煙者に発生し、声帯周辺(声門部)にもっとも多い。声門部の異常はなかなか治らない声のかすれとして、多くは早期から自覚できるので、声門癌は早期癌が多く放射線治療で治癒率が高いことが知られています。最近は内視鏡とレーザーを組み合わせて手術でのどを残せる場合もあります。進行癌では放射線+抗がん剤で治癒できなければ喉頭全摘術を行い、のどをとってくびに呼吸の孔(気管切開孔)が残ります。自然な声は当然失われます。

のどのがん2(上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌)

上、中、下それぞれ性質が異なり、上咽頭癌と中咽頭癌はウィルス発癌の関与が指摘され、下咽頭癌はアルコールと喫煙が関係します。
症状は上咽頭癌はものの見え方が変わる(複視)、頭痛、くびのしこり、滲出性中耳炎(はなみみの管が腫瘍で閉じる事によっておこる)など、中咽頭、下咽頭癌は飲みこみにくさ、のどの痛みなどです。
上咽頭癌はEBウィルス、中咽頭癌はHPVが関係あり、放射線の効きやすさは上>中>下の順で、放射線で直せないときは手術で切除が必要です。
進行下咽頭癌は咽喉食摘術といって、頸部にある咽喉頭をすべて摘出し、お腹から小腸の一部を持ってきて移植します。

耳下腺、顎下腺の病気

耳下腺腫瘍、顎下腺腫瘍

耳下腺、顎下腺は文字通り耳の下と顎の下にある唾液腺で、消化液である唾液を分泌します。ここに腫瘍ができることがあります。多くは良性ですが、悪性の場合は早急な治療が必要です。特に耳下腺には顔面神経が走行しており、悪性の場合放置すると顔が曲がる事があります。
私は耳下腺腫瘍の組織学的特徴と外科治療を専門に行ってきました。前任地浜の町病院は耳下腺腫瘍が全国有数の患者数で遠く関西からも紹介がありました。

唾石症

文字通り唾液を口に出すチューブに石が詰まったもので、食事のときにひどく痛んだり、腫れたりするのが特徴です。主に顎下腺にできやすいとされています。
症状が軽いうちは、炎症止めや抗生剤で様子をみる場合もありますが、繰り返したり、膿瘍(膿をためること)を生じると摘出は必要になります。口の中から触れる浅いものは口から取る事もありますが、大きい場合には顎の下を切開して手術となることもあります。超音波診断が有効です。

シェーグレン症候群、IgG4関連顎下腺炎

口が渇く、目が乾くなどで始まり、悪化すると肺や腎臓が障害される膠原病です。シェーグレンとIgG4関連顎下腺炎は病態が異なるものとされます。診断がついたら、通常は膠原病内科が中心となってステロイド治療などが行われます。耳鼻科では口腔ケアを行ったり、サラジェンという薬を使って口腔乾燥症の治療をおこないます。

反復性耳下腺炎

耳下腺が繰り返し腫れる病気で耳下腺から口に唾液を出す管の一部がせまくなって炎症を繰り返します。炎症の強い時に抗生剤や消炎剤を使用します。

ムンプス感染症(おたふく風邪)

小児では両耳下腺炎と発熱が中心ですが、成人でかかると、髄膜炎、膵炎、睾丸、卵巣炎などを起こす事があります。 ムンプスウィルス抗体が上がっていれば診断できます。
みみ・はな・のど・くび