国民の実に39.4%の方が何らかのアレルギーを有するとされ、まさにアレルギー疾患は“国民病”と言われています。アレルギー反応は異物を体から排除するためのいわば“過剰でなければ生体防御に必要な反応”なので、全ての反応を無くすわけにはいきません。ただ、過剰な反応は害になるもので、アレルギーも苦痛を伴う様々な症状が出るのです。ハウスダスト(だに)アレルギーの患者さんは朝のアレルギー発作(モーニングアタック)で年中ティッシュが手放せないことと思います。またすっかり有名になった花粉症は2月から5月にかけてスギとヒノキに過剰反応が起こり、くしゃみ・鼻水・鼻づまりで患者さんは辛いものです。パナソニックは2020年の調査で花粉症の仕事効率の低下による経済損失を試算した結果、なんと1日当たり2215億円と試算しています。
2020年はたまたまスギ花粉飛散が少ない上、新型コロナの影響でマスク着用、“ステイホーム”で患者さんが少なくすみましたが、それでも多くの方が症状に苦しみました。アレルギーには“コップの水理論”という考え方があります。少しずつ水が溜まっていくといつかは限界を超えてコップから水が溢れるように、少しずつアレルギー体質が形成され、限界値を超えると臨床症状となって現れるという考え方です。つまりアレルギー疾患は一度形成されると(専門用語で“感作”といいます)抗原(アレルギーの元となる物質)が少なくても同じように症状がでる場合があり、ハウスダストや花粉の量に関わらず、注意が必要です。もちろん日頃から無用な抗原の暴露は控えるのが鉄則ですが、一度症状が発症するようになった場合、お薬を使用しないと症状は治らないばかりか、お薬をやめるとまた同じ症状が再現されてしまいます。つまり、現在の抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬といわれるものが中心です)は“症状を一時的に抑えることができるだけで、根本的な治療ではないのです!
そこで最近はすっかり有名になった舌下免疫療法のお話です。
舌下免疫療法は従来の薬物療法と全くコンセプトが異なり、根本的に体質を改善する可能性がある数少ない治療の一つです。そのため、現在は従来の薬物療法、内視鏡手術療法と並んでアレルギー性鼻炎治療の3本柱のひとつになっています!
当院は舌下免疫療法認定施設として、福岡県でも有数の症例数のクリニックです。(2020年4月現在、終了した方も含めて500例以上。これは九州有数の症例数です。)患者さんの数が多いということは、有効性や副作用に関してもより情報量が多いということでもあります。まず、現段階での有効性ですが、著効、有効、やや有効、無効の4つに分類すると、抗アレルギー薬の減量や中止を基準にすると”やや有効”以上が82.7%と従来の報告よりやや高い印象があります。当院での舌下免疫療法は看護師からの概要説明のみならず、直接医師から有効性、注意点、副作用などが説明され、十分な治療コンセプトの理解の後に開始していますので、途中の患者さん都合による中断(ドロップアウト)が非常に少ないのが特徴です(継続97.3%)。副作用は、逆に思っていたよりはるかに少ない印象で、中止した中止理由は皮疹、喘息発作、呼吸困難感、頭痛、全身のかゆみ、下痢、倦怠感などでしたが、500人中数人のみであり、減量維持(10000単位を6600単位や3300単位に減量して維持)も数人程度でした。現段階では減量での効果減弱の報告はありません。注意点は、喘息やアトピー皮膚炎を合併している患者さんへの投与ですが、呼吸器内科、小児科、皮膚科の先生との連携でとくに問題なく継続できている患者さんがほとんどです!関係する先生方にお世話になり、本当に感謝申し上げます。この場を借りてお礼申しあげます。ダニ舌下免疫については抗原量が10000単位とスギ舌下免疫より多いため、やや副作用に注意が必要ですが、逆に近年、アトピー性皮膚炎や喘息の根治治療としての可能性も指摘されており、当院からの臨床データーも解析中です!
舌下免疫療法とは?
舌下免疫療法には今のところ
の2種類があります。これは、少しずつそのエキスを舌の下に入れて、免疫反応を穏やかにしていき、薬で抑えることなく、根本的な体質改善をして治す治療です。
誰にでも効果はあるの?
治療を始めた全員に100%効果があるわけではありません。
個人の体質によるものがあり、約7割の方には効果がありますが、約3割の方にはあまり改善がみられなかったという調査報告がなされています。
どのくらいで効果が現れるの?
個人差にもよりますが、2週目くらいから徐々に効果が現れ始め、大体2〜3ヶ月で効果を感じられるようになります。
舌下免疫療法はいつまで続けたらいいの?
徐々に効果が現れ始めますが、効果が現れたからといって、完全に体質が改善したわけではないので、個人差にもよりますが、完全に体質が改善するには、3〜5年ほど治療を続けていただくことをおすすめしております。
舌下免疫療法は副作用はあるの?
稀に、皮疹、喘息発作、呼吸困難感、頭痛、全身のかゆみ、下痢、倦怠感などが見られますが、当院での臨床データでは、中止となったのは500人中数人のみで、抗原量を減量して維持した患者さんも数人にとどまりました。
喘息やアトピー性皮膚炎などを合併していても舌下免疫療法はできるの?
結論から言えば、喘息やアトピー性皮膚炎を合併している患者さんも舌下免疫療法は行うことができます。副作用などに注意が必要ですが、呼吸器内科、小児科、皮膚科の先生との連携でとくに問題なく継続できている患者さんがほとんどです。近年、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、喘息の3大アレルギー疾患は合併率が高いということが明らかになっており、同時に治療を行うことでそれぞれのアレルギー疾患が根治する可能性も指摘されています。例えば、ダニによりアレルギー性鼻炎が発症していれば、下気道にもダニが侵入し喘息を引き起こしやすいと考えられますし、アレルギー性鼻炎に悩まされている方は将来的に喘息を発症する可能性も高いということです。当院では、すぎとダニのダブル舌下免疫療法も導入しており、患者さんの病態に合わせて安全な舌下免疫療法を目指しています。ダブル舌下免疫療法は新しい治療法ですが、職員一人一人がきちんと勉強会を通じて知識を高める努力をさせていただいていますので、疑問点は職員にも遠慮なくお聞きください!
舌下免疫療法の流れを教えてください
血液検査によりアレルギー物質を特定します。
※2年以内の血液検査の結果がございましたらお持ちください
※検査結果がでるのに数日かかります。
アレルギー物質が特定されたら、舌下免疫同意書にご署名いただき、最初の投薬をします。そのまま30分ほど院内待機していただき、アナフィラキシーショック(アレルギーによるショック)がないか確認します。
確認後、問題がなければ、投薬を開始します。最初はアレルギー反応をみるために1~2週間分の投薬となります。
※お時間がかかるので、平日14時~16時の受診をお願いしております。
初回の投薬分を服用し終わったら、再診となります。副作用などの問題がないかを確認し、28日間分の投薬となります。
3~5年継続後、患者さんと相談のうえ投薬を終了します。
例年花粉症のシーズンになると、市販薬でごまかしていたんですが、という患者さんが来られます。確かに市販薬も良いものもありますが、点鼻薬には要注意です。病院で処方される薬についても言えることですが、用法用量をきちんと守ることが何より大切です。鼻が詰まるからと言って、決められた以上の点鼻を行っていませんか?市販の点鼻薬の一部には 血管収縮薬と言って、長期的に使うのに適切ではないものや、麻酔薬の類いが成分に含まれているものもあります。これらを長期的に大量に使用することは、薬剤による鼻炎を引き起こすことがあり注意が必要です。やはり、診察をきちんと受けて自分にあった投薬を受けるのが一番ですよ!!