なんだか聞こえが悪くなってきたように感じて、最近、集音器の広告が気になる、街を歩いていると補聴器の看板が気になる、そんなことはありませんか?気になっているけれども、どんなものかよくわからないと思っている方に、補聴器というものはどのようなものかについて、ご紹介したいと思います。
聞こえが悪くなる原因
最初に、聞こえが悪くなってきた理由を考えてみましょう。耳は音を集めて脳に伝える働きをしています。音というものは空気の振動ですが、それを脳に伝えるには、空気の振動を電気信号に変える必要があります。人間の耳の奥(内耳)には、有毛細胞という毛が生えた細胞があり、この細胞が空気の振動を電気信号に変えています。この有毛細胞は、だれもが年齢と共にダメージを受けてきます。年齢以外の原因としては、騒音や遺伝、動脈硬化、突発性難聴やウィルス感染などの病気などが関係しています。
この有毛細胞のダメージで、音を電気信号に変えて脳に伝える部分が原因となっている難聴を感音難聴と言います。感音難聴の人は小さな音は聞こえないのですが、一方で、大きな音はよりうるさく感じるという特徴があります。
補聴器の特徴
図の緑のところが、ちょうど良く聞こえる音の大きさです。感音難聴の人はちょうど良く聞こえる音の大きさの範囲が狭くなっていることが分かります。
通信販売等で取り扱われている集音器や補聴器の多くは、すべての音を等しく大きくします。そうすると、小さい音は音の増幅が足りずに聞こえないままであり、大きな音は大きすぎてうるさくなってしまい、結果、音がわーんと響いて、音は大きくなったけれども言葉が聞き取れないということになります。
現在の補聴器は、ほぼすべてがノンリニア増幅をするデジタル補聴器です。ノンリニア補聴器は図のように、その人の聴力に合わせて、音の高さ別、音の大きさ別に音の増幅量を変えて調整することができます。言葉の聞き取りに必要な音を圧縮して、その人のちょうど良く聞こえる部分に入れ込むイメージです。
補聴器とうまく付き合っていくコツ
補聴器は調整しただけではよく聞こえません。補聴器を通した音は、今まで自然に耳から聞いていた音とは違う音です。圧縮された、器械を通した音です。その新しい音で、会話の言葉など必要な音を聞き取る練習をする必要があります。これを「聴覚リハビリテーション」とよび、聴覚リハビリテーションは補聴器を上手に使うために必須のものと言われています。補聴器の音に慣れるためにはできるだけ長い時間補聴器をつけて、耳と脳を訓練していくことが必要です。朝起きてから夜寝るまで、補聴器をつけてたくさんの音を脳に届けるようにしましょう。
補聴器とうまく付き合っていくコツ、それは、まずは正確な聴力の評価を受けること。その上で、その人の聴力に合うように、補聴器調整の専門家に補聴器を調整してもらうこと、そしてその補聴器をしっかり使用して、補聴器の音で会話を聞き取る訓練をすることです。
補聴器を考えた時に、耳鼻咽喉科を受診するメリット
補聴器の調整に欠かせないのが、正確な聴力の評価です。難聴には鼓膜や耳小骨など、音を伝える部分に異常がある伝音難聴と、先述した感音難聴、この二つの混ざった混合難聴というタイプがあります。耳鼻咽喉科ではこの難聴のタイプをしっかり診断し、手術などの治療で治る難聴かどうかを評価します。また、防音室で正確な聴力検査と、言葉の聞き取りの検査(語音明瞭度検査)を行います。その検査結果をもとに患者さんと相談し、補聴器が必要な場合には、検査結果や耳の状態などの詳しい情報を補聴器調整の専門家(補聴器認定技能者)にお伝えすることができます。当院には、補聴器認定技能者の方が月に数回来られていますので、お気軽にご相談ください。お試しも可能です。また、以下に記載しますが、補聴器の購入について経済的にお手伝いできる場合もあります。
補聴器の購入費用、補助について
補聴器の購入は基本的には自費になりますが、購入費用を医療費控除の対象とすることができます。そのためには、日本耳鼻咽喉科学会が認定する補聴器相談医(当院は補聴器相談医が対応しております)を受診し、補聴器適合に関する診療情報提供書をもらってください。その診療情報書をもとに、補聴器認定技能者もしくは、認定補聴器専門店で補聴器を購入した場合、税務署に医療費控除を申請することができます。
また、高度・重度難聴で聴覚障害の等級に当てはまる場合や18歳未満の軽度・中等度難聴児の補聴器購入に関しては、公的な補聴器購入費用の助成制度を利用できます。詳しくは担当の医師にお尋ねください。
補聴器は両耳しないといけないの?
言葉の聞き取りの検査(語音明瞭度検査)で左右差が大きく、片側がほとんど言葉を理解できない場合は片耳から開始します。しかし通常は左右の差がないことが多いのでその場合は、補聴器は、できれば両耳で使うことが勧められます。その理由として両耳聴効果というものが言われています。両耳で使用することにより、補聴器から出す音が小さい音でも言葉が聞き取りやすくなり、疲れにくくなります。また、騒音下での言葉の聞き取りや音の方向感については、片耳装用より両耳装用のほうが有利です。両耳に補聴器を使うデメリットとしては、2つ購入しなければならないため、費用が高くなることです。しかし、片耳に高い補聴器をつけるのでしたら、安い補聴器を両耳につけるほうがお勧めです。
補聴器をつけたら、健聴の人と同じように聞こえるの?
残念ながら、補聴器をつけても健聴の人と同じ状態にはなりません。難聴になると、小さな音が聞こえないだけでなく、会話の内容を聞き取る能力も悪くなってしまいます。補聴器は、音をくっきりとさせ聞き取りやすくしますが、言葉として何と言っているかを聞き取る能力は100%にはなりません。補聴器をつけている人と話をするときには、周りの人も、正面で近い距離から、はっきりゆっくりと、聞き取りやすいように話す配慮が必要です。
難聴を放置すると認知症になりやすくなるって本当?
人間は様々な感覚器から情報を得ていますが、視覚情報と並んで聴覚情報は最も大切な情報の一つです。年齢とともに内耳の機能は衰えていきますが、一般的に高い音から聞こえが悪くなっていきます。言葉には母音と子音がありますが高い音は子音に関係するため、年齢とともに聞き取りの明瞭度が低下することが多く、そのため“聞こえているふりをして聞き流す”ことが多くなります。言葉が通じないと相手にされなくなったりして会話が続かず、ひいては人と話すことが億劫になったり、人と会っても聞こえているふりをして脳の一部を使わないようになります。こうしたことから難聴は認知症のリスクが高まると近年の論文にも報告されており、耳鼻咽喉科学会や厚生労働省も注意を呼びかけています。きちんと聞こえることでいつまでも若々しい脳を保ちたいものですね!