耳鼻科の病気で一番有名なものの一つに中耳炎があります。みなさんよくご存知の通り、こどもの病気の代表選手ですよね!鼻と耳を結ぶチューブ(耳管)は大きくなるにつれて少しずつ調子を整えていくため、小さなうちは中耳炎を起こしやすいといえます。小さなこどもの耳管は未熟なため、より気圧調節で問題を起こしやすく、聞こえに影響が出て、ひいては言葉の発達に影響を及ぼします。
痛くない中耳炎 滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)
中耳炎と聞いて、皆さんはどのような想像をしますか。きっと、耳が痛いということを一番に考えると思います。しかし、痛くない中耳炎もあるのです。滲出性中耳炎という病気なのですが、あまり馴染みのない名前かもしれません。滲出性中耳炎とは、鼓膜の奥の中耳といわれる部屋に水(滲出液)がたまった状態で、10歳までの小児に多い病気です。中耳に水がたまると、耳がふさがった感じになります。高いところに登ると耳がふさがった感じになりますが、その状態がずっと治らないような感じです。滲出液の量が多いと聞こえが悪くなります。鼓膜の奥で耳栓をしているような状況です。しかし、こどもは順応力が高いためその状態にすぐに慣れてしまい、症状を訴えないために、気づかれずに長い時間を過ごしてしまうことがあります。聞こえが悪いまま長い時間を過ごすと、言葉の発達に影響がでてしまうことがあります。発音が変だということでよく調べてみると、滲出性中耳炎が原因となっていることがあります。また、滲出性中耳炎は鼓膜の変化(へこんだり薄くなったりすること)を生じてくることがあり、将来、癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎などの、手術を要する治りの悪い中耳炎に進行することがあります。そのようなことを防ぐために、症状がなくても、滲出性中耳炎をきちんと治療することが必要です。
痛くない中耳炎(滲出性中耳炎)の症状
小学校高学年ごろになると、耳の詰まった感じや違和感を自分で言えますが、低年齢では自分で症状を訴えることは少ないです。耳をよく触って気にしている、呼びかけても振り向かない、えっ?と聞き返しが多くなっている、テレビの音が大きいもしくは近くで見るようになったなどの症状がみられる場合には、一度、耳鼻咽喉科でのチェックをおすすめします。
痛くない中耳炎(滲出性中耳炎)になぜなるの?
中耳といわれる部屋は、耳管という、耳と鼻の奥をつないでいる細いチューブでつながっています。本来であれば、その耳管を通って空気が鼓膜の奥に入っていくのですが、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などの鼻の病気があったり、鼻の奥のアデノイドという扁桃腺が腫れていたり、また耳管の働きが体質的に悪い人は、鼓膜の奥に水がたまった状態になります。その為聞こえが悪くなります。急性中耳炎の治療が不十分な時にも、滲出性中耳炎に移行することがあります。
痛くない中耳炎(滲出性中耳炎)で注意することは?
鼻の奥と中耳がつながっていますので、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の治療を行うことが大切です。鼻すすりは耳管の通りを悪くしますので、滲出液が溜まりやすくなります。鼻すすりをやめて、やさしく片方ずつかむようにしましょう。鼻がまだかめないお子さんは、家庭用の吸引機で鼻を吸ってあげることも有用です。中耳にたまる水は、中耳の粘膜から分泌されるもので、外から入るものではありませんので、お風呂やプールの水が耳に入ることは原因ではありません。
痛くない中耳炎(滲出性中耳炎)の治療方法
中耳にたまっている滲出液が、聞こえを悪くしていますので、少しでも滲出液を減らすことが治療になります。中耳にたまっている滲出液を減らすお薬として、カルボシステインが有効です。また、漢方薬の十全大補湯も有効ですが、味が飲みにくいのがお子さんには難点です。耳の治療と一緒に、耳に悪い影響を与えている鼻やのどの病気の治療を並行して行います。飲み薬で効果が不十分な場合には、鼓膜を切開して滲出液を直接出したり、それでも繰り返す場合には鼓膜を切開した部分にに小さなチューブを入れて、水がたまらないようにします(鼓膜チュービング)。鼓膜チュービングは非常に有効な治療方法ですが、稀にチューブを入れていた穴が残り、将来鼓膜の穴を閉じるための手術が必要となる可能性があることがデメリットです。滲出性中耳炎はすぐに治る場合も多いのですが、なかなか治りにくく、お薬を飲んでも何カ月もよくならない場合があります。そんな時に、鼓膜切開をしたほうがよいのか、チューブを入れたほうが良いのか、悩ましい場合があります。当院では、滲出性中耳炎のガイドラインに従い、複数の耳鼻咽喉科専門医で治療方法を検討して決めています。耳管の働きは成長とともに良くなることが多く、大きくなると中耳炎になりにくくなるのはよく知られています。滲出性中耳炎も同じで、大きくなると治りやすくなります。症状がないのに、いつまで通院を続けないといけないのか不安になることもあると思いますが、大切なことは中耳炎にならない年齢に成長するまでに次の2つのことが起こらないかどうかです。1つめは、聞こえにくいことにより言葉や新しいことを学習するのに不利になっていないか、2つめは鼓膜の変化(へこんだり薄くなったりすること)によって将来治りにくい中耳炎に進行する様子がないかです。この2つが少しでもみられる場合には、早くチューブを入れたほうがよいということになります。そしてこの2つ変化はこどもが口にすることができない為、定期的に検査や診察を受けていただいて、治療を続けていくことが重要です。
痛くない中耳炎(滲出性中耳炎)は大人でもなるの?
大人でもなります。風邪をひいて鼻の調子が悪くなった時、飛行機に乗って気圧の調節がうまくできなかった時などをきっかけになる場合もありますし、もともと耳管の働きが弱い方はきっかけがないのになることもあります。稀ではありますが、耳管と鼻がつながる上咽頭という部分に腫瘍ができていることもありますので、大人なのに滲出性中耳炎を繰り返す方は、ファイバー検査にて腫瘍がないかどうかを確認する必要があります。腫瘍は白圡先生が専門ですので、気になる方は聞いてみてください。
“時間”とともにかわる“耳管”のお話
小さなこどもは、とにかく面倒なことが嫌いです!おもちゃは出すのは好きでも、お片づけは嫌いです。鼻をかめといっても、面倒なら鼻すすりでごまかします。小さいうちは鼻をだらんと垂らしていても、親に拭いてもらったり、病院に連れていかれて治療しますが、鼻すすりで表面上鼻がでていないと、お母さんもあまり気にならなくなり、そのままにしがちです。しかし、鼻すすりはいろんな病気の原因となります。まず鼻水が内側に溜め込まれ炎症をおこすと、鼻炎や副鼻腔炎として臭くて汚い鼻水や口臭(膿性鼻汁)がでてきますし、耳管が狭くなって滲出性中耳炎につながります。さらに小学校にあがるまでは扁桃腺が大きく肥大したり、アデノイドが腫れたりして、滲出性中耳炎になりやすい、つまり“耳管が狭くなりやすい”時間(時期)です。大きくなって、耳管が成熟してくると、小学校に上がれば、この手の中耳炎はグッと減り手がかからなくなります。余談ですが、思春期や大人になってダイエットや病気のストレスなどで過度の体重減少となれば、今度は耳管が開きやすい時期(時間)となり、常に開きっぱなしの耳管開放症をおこすことがあります。時期(時間)とともに“耳管にまつわる問題もかわっていく”というお話でした!
こどもの耳の痛みと発熱(急性中耳炎)について
小さなお子さんが風邪の症状とともに、耳を痛がる、熱が出る、機嫌が悪い、夜中に起きてぐずる、といった症状がみられた場合、急性中耳炎になっている可能性があります。急性中耳炎とは、鼓膜の内側にある中耳に炎症が起こった状態で、多くの場合、原因は鼻の奥の上咽頭の細菌が中耳に入ることで起こります。大人は同じように風邪をひいても、中耳炎になることは稀ですが、こどもはどうして中耳炎になりやすいのでしょう?耳と鼻の奥(上咽頭)の間には、耳管という管があります。大人の耳管に比べてこどもの耳管は太く短く、水平に近いため、鼻の奥の細菌が中耳に入りやすい形となっています。これが、中耳炎になりやすい1つ目の理由です。2つ目の理由は、こどもは細菌感染に対する免疫力が低いためです。細菌と戦うための免疫グロブリンは生後6か月までは母親由来のものがありますが、その後は自分で作らないといけないため、十分に作れるようになる2歳まではとくに免疫グロブリンが低い状態となります。そこに保育園などで今までに経験したことのない細菌と接する機会が増えると、色のついた鼻水がでて、鼻の奥の菌が耳管を通じて中耳に感染し、急性中耳炎となるのです。ウィルスが原因で、鼓膜が赤くなっただけの軽い中耳炎の場合には、自然に治ることもありますが、痛みや発熱といった症状がある場合、細菌によって起こる中等症、重症の中耳炎であることが多く、この場合は抗生剤(抗菌薬)が必要です。最初から重症で痛みや熱などの症状が強い場合、薬で治りにくい場合には、鼓膜切開をして膿を出すこともあります。
急性中耳炎の治療にはどの抗生剤がよいの?
急性中耳炎に使われる抗生剤にはいろいろな種類があり、それぞれの特徴がありますので一概に言えない部分がありますが、案外昔から使用されているペニシリン系の抗生剤が殺菌作用が強く、効果が高いことが報告されています。ペニシリン系の抗生剤は薬剤耐性菌を作りにくいことも大きなメリットです。しかし、最近では抗生剤が効きにくい薬剤耐性菌による難治性・反復性の中耳炎が増えており、耳鼻咽喉科医を悩ませています。治りにくい中耳炎に対しては、原因菌を菌検査で調べて、その菌に対応した適切な抗生剤を適切な量使用することが必要となってきています。
治りにくい中耳炎(難治性中耳炎)、繰り返す中耳炎(反復性中耳炎)になってしまった場合はどのように治療すればよいの?
中耳炎がなかなか治らない原因として
- 薬剤耐性菌が原因となっている
- こどもの免疫力には個人差があり、免疫力が十分ではない
という可能性が考えられます。
反復性中耳炎、難治性中耳炎の治療としては
- 原因菌を調べて、耐性菌が原因となっていないか確認する、原因菌に合った適切な抗生剤を使用する
- 鼻が悪いときは鼻の治療も併せて行う
- 免疫力を高める漢方薬を併用する
などがあります。
また、アレルギー性鼻炎などで鼻すすりがあると中耳炎の治りが悪いこともあります。これらの治療で効果が不十分な場合は、鼓膜に小さなチューブを留置して小さな穴をつくり、ここを通じて膿が出て空気が中耳に入ることで中耳炎を起こりにくくする治療があります。また小さなお子さんは難しいですが、3歳頃からは“鼻すすり”をしないできちんと鼻をかむ習慣をつけていただくことも大切です。当院では鼻かみの方法を看護師がご説明いたしますので、お気軽にお尋ねください。
鼓膜切開、鼓膜チューブ留置術はどのような時に必要ですか?
急性中耳炎で鼓膜の腫れが強く、熱が高い場合には、鼓膜切開と言って鼓膜に小さな穴をあけて中の膿を出してあげると、症状を早くとることができます。この切開の穴は1~2週間で自然に閉じることがほとんどです。切開は感染症以外に中耳腔に滲出液が溜まって慢性的に難聴を生じる、滲出性中耳炎でも行うことがあります。(滲出性中耳炎はvol.5の「痛くない中耳炎」でも詳しく書いております)反復性中耳炎、難治性中耳炎の場合には、鼓膜切開をした後、小さなチューブを留置して空気の通り道をつくる治療が有効です。成長して中耳炎にならない抵抗力がつくまでの間、鼓膜にチューブをいれて空気をいれてあげることで、中耳の炎症を起こりにくくします。当院では小児中耳炎に熟練した医師が適切なタイミングで必要不可欠な場合に鼓膜切開を行いますので、少しでも疑問が残る時は遠慮なく医師か看護師までお尋ねください!
鼓膜チューブ留置術のメリットとデメリットを教えてください
中耳に膿や水(滲出液)がたまらず、空気が入ることで粘膜の炎症が改善し、急性中耳炎になりにくくなりますので、飲み薬を減らし、通院の頻度を減らすことができます。状態が安定すれば、月に1度程度の通院で大丈夫です。中耳炎を起こりにくくすることで、聞こえをよくすることができます。これは、言葉を覚えていく過程にあるお子さんにとって、大切なことです。デメリットとしては、鼓膜に小さな穴が開いた状態ですので、耳に水が入らないように注意が必要です。プールの際は耳栓の使用をお勧めします。チューブは1~2年留置することが多いです。チューブを抜くタイミングについては医師の判断を仰いでください。5%程度の患者さんにチューブを抜いた後の穴が残ることがあります。その場合は10歳以上になって、鼓膜の穴をふさぐ手術が必要となることがあります。鼓膜チューブ留置術は、鼓膜麻酔で外来でできることが多いですが、体動が大きいお子さんの場合には危険性が高いため、総合病院に入院して全身麻酔下に行うことが必要な場合があります。
1日3回の抗菌薬は2回にできないの?
抗生剤は薬の種類により、1日1回の内服でよいものから、3回の内服が必要なものまで内服の回数に違いがあります。なぜなのでしょう?少し専門的な話になりますが、抗生剤の作用機序にはPK/PD理論というものがあり、1回の薬剤の量を増やすと効果がよくなるもの(濃度依存性)と、回数を増やすと効果がよくなる種類のもの(時間依存性)があるのです。時間依存性の1日3回の抗生剤を2回しか飲まないと、効果が不十分になるだけでなく、薬剤耐性菌の増加につながります。抗生剤の効果を十分に得るためには、時間を工夫して、回数を守って内服することが、必要です。1日3回の薬の場合、薬の間隔は最低4時間あけてもらえると大丈夫です。保育園に行ってお昼に飲めない場合にも、朝薬を飲んで、帰ってきてすぐお薬を飲み、4時間あけて寝る前に飲むことで1日3回内服できれば、お薬が良く効くようになります。どうしても保育園などで2回投与型の抗生剤を希望される場合が多いのですが、場合によっては3回のタイプの方がお子さんに合った抗生剤と言うこともありますので、医師にお尋ねください。
薬剤耐性菌とは?
治らない中耳炎、繰り返す中耳炎の原因となる、薬剤耐性菌とはどういうものでしょう?薬剤耐性菌とは、抗生剤が効かない菌です。耐性菌はどうして増えるのでしょう?抗生剤の種類によって、耐性化のしやすさに差があります。また、抗生剤を飲んだり飲まなかったりして、血液中の抗菌薬の濃度が菌を殺すのに十分でない状態が続いたり、同じ抗生剤ばかり繰り返して使ったりすることも、耐性菌を増やすことにつながりますので注意が必要です。