治りの悪い副鼻腔炎
副鼻腔炎は鼻の病気にも書きましたが、鼻の横にある副鼻腔に炎症が持続する状態です。副鼻腔は顔面の骨に囲まれているため、薬が届きにくく、治療効果がなかなか実感できないことも多いのが特徴です。そのため投薬、処置やネブライザー、鼻洗浄で治療後、症状が一度良くなっても(すぐに治療を止めると)再燃することも多いという、厄介な側面もあります。しかしながら、しっかりと体質を考えた治療を行うことで長期的に順調である患者さんも多く、当院ではいくつかの治療方法をミックスして行い、きちんと通院していただくことで治療効果に関してはかなりご満足いただいている場合が多いのではと感じております。特に力をいれているのは漢方による体質改善と、アレルギー体質の根本的治療です。ハウスダスト(ダニ、ほこり)の強いアレルギーがあるため副鼻腔炎の治りが悪い患者さんには、体質改善の根本治療となりうる舌下免疫療法が著効する場合もあります。詳しくは舌下免疫療法ページをご参照ください!
では、なおりのいい通常型の副鼻腔炎と“治りの悪い”副鼻腔炎(難治性副鼻腔炎)の差はどこにあるのでしょうか?
私は長年の治療経験から、次の二つのポイントが大切だと考えています。一つ目は“通常の治療に抵抗する感覚”です。あれ?治りが悪い、なんか症状が長いなぁ、薬の効きが悪い気がする、妙に繰り返すな、という治療する上での違和感です。
もう一つは、“副鼻腔炎以外の病気を伴っていること“です。代表例は喘息とアトピー性皮膚炎です。他にリウマチなどで長期間ステロイド内服投与中や、抗がん剤治療による免疫低下状態、糖尿病などの代謝疾患の影響などがあります。また、妊娠中などでも免疫状態がかわりますが、これらは一時的なものであり、妊娠が終わると症状が治りやすくなることがほとんどと思います(”妊娠中副鼻腔炎“)。喘息、アトピー性皮膚炎とアレルギー性鼻炎はお互いに関係することが多く、それらは“アレルギー体質(アトピー素因)”と大きく関係します。近年これらの架け橋としての“好酸球”の病態における役割が明らかになってきており、治りの悪い副鼻腔炎で喘息を合併するものの中に、“鼻腔ポリープ(鼻茸)”をともなう難治性副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎)が存在することが明らかになってきました。
好酸球性副鼻腔炎の診断にはCT検査が必要です。なぜなら診断基準にCTで“篩骨洞”という場所の状態を確認するという記載があるからです。他には採血による好酸球数の上昇や鼻腔ファイバーによる、鼻腔ポリープの程度が診断としては重要です。また、アスピリン喘息という特殊なアレルギーや、通常型の気管支喘息の有無も重傷度に関わります。この副鼻腔炎は手術治療を行っても、何度も繰り返す特徴もあり注意が必要です。
当院では難治性副鼻腔炎に対しては最新型のコーンビームCTで正確な病状評価を行うことで、難治性副鼻腔炎の診断に役立てるとともに、内視鏡による鼻副鼻腔手術(ESS)の手術適応や炎症の起こっている場所、ポリープの広がりなどを、検査することが可能です!当院で正確に診断された好酸球性副鼻腔炎は開院以来50例を超えており、福岡県有数の症例数を誇っています。2020年からは皮下注射による治療も開始されており、今後は手術以外の治療も選択肢に加わってくると考えられます。手術以外の治療でどうしても治りにくい時は、手術ができる専門の施設にご紹介しますのでご安心ください!わたしは、副鼻腔炎の手術は最終手段で、まずはきちんと通常の内服治療や処置を行うことが重要で、すぐに手術に頼らないこと、しかし必要とあれば、適切な時期に手術をお勧めすることが大切と考えております。そのために丁寧に病態をみていくことが大切です。

なぜ副鼻腔炎になるんですか?

なぜ副鼻腔炎になるんですか? 副鼻腔炎の理由は様々ですが、治療を考える上で“なぜ”その病気になったのかはすべての病気で非常に重要です。理由を考えるきっかけは大きく分けて2つあり、副鼻腔炎を“起こしやすい体質”と“きっかけ”があります。

副鼻腔炎を起こしやすい体質

鼻の空洞と副鼻腔との間には迷路の様な通路が存在し、空気と鼻水の行き来があります。そこの粘膜が腫れていたり、骨や軟骨が曲がっていてもともと狭い構造だったり、ポリープなどがあると炎症が起こりやすくなります。花粉症を含めたアレルギー性鼻炎がベースにあったり、鼻をきちんとかまずに吸い込むくせがあるとさらに副鼻腔炎を起こしやすくなります。他にはがんや膠原病で免疫機能が低下したり、妊娠中の女性は赤ちゃんを守るために免疫機能が低下することがあり、副鼻腔炎を起こしやすい体質と言えます。

副鼻腔炎を起こすきっかけ

花粉症で急に鼻水が多くなったり、粘膜が腫れると先にお話しした迷路の様な通路がさらに狭くなり、炎症が治りにくくな ります。インフルエンザ、アデノウィルスなどのウィルス感染も同様の反応を起こすことがあり、副鼻腔炎を起こす原因の一つになります。

副鼻腔炎はうつりますか?

安心してください!副鼻腔炎自体は他人にうつることはありません。この質問は意外と患者さんからよくいただきます。ただ、「Q なぜ副鼻腔炎になるんですか?」でもお話ししましたが、ウィルスなどの感染症(いわゆる風邪やインフルエンザ)の場合には、咳やくしゃみからうつりますのでご注意くださいね。同じ様に感染しても副鼻腔炎になるかならないかは、体質や鼻かみの習慣によるところが大きいと思います。

副鼻腔炎の治療にはどんなものがありますか?

主に抗生剤と抗炎症剤や去痰剤、症状によっては漢方薬も使用します。アレルギー性鼻炎が原因ならアレルギーの治療薬やステロイド点鼻薬も使用します。小児は鼻かみ指導、大人は薬を減らすために鼻うがい(鼻洗浄)も有効です。特に妊婦さんには使えないお薬が多いため積極的に鼻洗浄をお勧めしています。アレルギー性鼻炎が原因の場合には、鼻と副鼻腔の交通路を確保するためにもアレルギーの治療が非常に重要です。最近では花粉症に伴う副鼻腔炎にはスギ舌下免疫療法を、ダニが原因で治りが悪い副鼻腔炎には、体質改善を含めたダニ舌下免疫療法を行うことも増えてきました。

副鼻腔炎の治療でCTが必要なのはどんな時ですか?

副鼻腔炎の診断の基本はレントゲン写真です。レントゲンでは副鼻腔炎の重症度と、炎症を起こしている副鼻腔をはっきりさせて治療開始します。しかしCTまで必要と判断するのは、ずばり通常の副鼻腔炎と経過が違うときです。違う理由は次の4つで、
  • 治療経過が思わしくない時、何回も繰り返す時(難治性副鼻腔炎)
  • 炎症が強く視力低下やひどい頭痛など重症を疑う時(鼻性視神経症、頭蓋内合併症)
  • 片側のみの副鼻腔炎や、レントゲンで骨が壊れている時(悪性腫瘍や真菌症、歯からくる副鼻腔炎を疑う時)
  • 多発ポリープを認める時や、匂いにくいなどの症状を認めることが多い好酸球性副鼻腔炎(難病指定)を疑う時
いずれの場合も手術適応を見極める目的でCTが必要です。
基本的に当院で治療経過をみながらCTが必要かを慎重に判定しますので、初診からいきなりCTをとることはあまりありませんが、他院の治療を長期に行ったのちにご来院された場合には初回から撮影することもあります。(CTのみで3割負担の方で3,000円ほどかかります)

どんな時に副鼻腔炎の手術が必要となりますか?

抗生剤の進歩で手術が必要な症例は減りましたが、「Q なぜ副鼻腔炎になるんですか?」でもお話しした様に、鼻と副鼻腔の通路が狭い原因が骨や軟骨の曲がりやポリープだった場合には、手術で広げてあげる必要があります。現在は以前の様に“唇の内側を切って、骨に穴をあけて”する手術はほとんど行いません。ESSといって内視鏡を用いて鼻の穴から手術をする方法が一般的です。私はできるだけ手術に頼らずに、まずは根気強くお薬や洗浄・ネブライザーで治療するのが大切だと思います。しかし、難治性副鼻腔炎のなかには、薬の効きにくいカビや腫瘍、ポリープが原因だったり、好酸球の関与する好酸球性副鼻腔炎などもあるためやむをえず手術が必要となる場合もあります。手術はCT情報をもとに、コンセプトは“鼻と副鼻腔の交通路を広げる”ことにありますので、鼻の中の傷も少なく、より生理的な治り方に近くなります。以前の大きく切る手術とは大きく変化しました。

副鼻腔炎は完全に“治り”ますか?

どんな病気でも“完全に治ったか”を判定するのは難しいものです。例えば、私の専門のひとつであるがんなら、がん細胞が体内から消失して再発転移の可能性が消えた時に完治といえるのですが、残念ながら副鼻腔炎がまったくなくなったと証明することは難しいものです。現に副鼻腔炎は風邪を引いた後は、非常に軽度のものを含めるとかなりの確率で一度は生じている可能性が高いことが指摘されています。しかし、痛みや咳などの不快な症状がなければ、全員に治療を行う必要はありません。時々症状がないのに、脳ドックで副鼻腔炎を指摘されて来院する方がおられますが、場合によっては経過観察でいいこともあります。つまり医学的に完全に治ったか治ってないかより、不快な症状が治ったか、症状をぶり返さないかが大切なのです。
ちょっとひとこと
副鼻腔炎について、理解を深めていただけたでしょうか?実は副鼻腔炎は、いびきの原因にもなっています。呼吸には鼻呼吸と口呼吸がありますが、鼻呼吸は鼻のフィルタリング機能や加湿、保温機能で、のどの粘膜の炎症を抑え、いびきを抑えることが知られています。また、口呼吸は舌根が落ち込んでいわゆるいびき体質を悪化させます。お子さんは特に成長期にアデノイドが大きかったり副鼻腔炎があると、集中力を欠いていわゆる“アデノイド顔貌”になったり、鼻と耳の管(耳管)が狭くなり滲出性中耳炎が治りにくくなり、聞こえに影響します。きちんと正しい鼻かみを行い、鼻すすりをやめさせることは小児副鼻腔炎の予防にも非常に重要だと思います。当院では知識を持った看護師による正しい鼻かみの仕方や生活指導も行っていますので、お気軽にお声をかけてくださいね!